・・・そして筍の皮を剥ぐように幾枚もの紙を剥がすと真黒になった三文判がころがり出た。彼れはそれに息気を吹きかけて証書に孔のあくほど押しつけた。そして渡された一枚を判と一緒に丼の底にしまってしまった。これだけの事で飯の種にありつけるのはありがたい事・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・……で、損料……立処に損料を引剥ぐ。中にも落第の投機家なぞは、どぶつで汗ッかき、おまけに脚気を煩っていたんだから、このしみばかりでも痛事ですね。その時です、……洗いざらい、お雪さんの、蹴出しと、数珠と、短刀の人身御供は―― まだその上に・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ それから熱が醒めて、あの濡紙を剥ぐように、全快をしたんだがね、病気の品に依っては随分そういう事が有勝のもの。 お前の女に責められるのも、今の話と同じそれは神経というものなんだから、しっかりして気を確に持って御覧、大丈夫だ、きっとそ・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・むかし、正しい武家の女性たちは、拷問の笞、火水の責にも、断じて口を開かない時、ただ、衣を褫う、肌着を剥ぐ、裸体にするというとともに、直ちに罪に落ちたというんだ。――そこへ掛けると……」 辻町は、かくも心弱い人のために、西班牙セビイラの煙・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・と突然に夜具を引剥ぐ。夫婦の間とはいえ男はさすが狼狙えて、女房の笑うに我からも噴飯ながら衣類を着る時、酒屋の丁稚、「ヘイお内室ここへ置きます、お豆腐は流しへ置きますよ。と徳利と味噌漉を置いて行くは、此家の内儀にいいつけられたるな・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・米がなければ身ぐるみ剥ぐといわれ、それが行われている。「勅令」によってこのことが行われているのである。 主権在民の憲法が、偽りなく主権を人民の上に保証するものでなくては日本は立ちゆかないのである。・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
・・・ ナポレオンはひき剥ぐように、寝衣の両襟をかき拡げた。 ルイザの視線はナポレオンの腹部に落ちた。ナポレオンの腹は、猛鳥の刺繍の中で、毛を落した犬のように汁を浮べて爛れていた。「ルイザ、余と眠れ」 だが、ルイザはナポレオンの権・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫