・・・ しかし恩地小左衛門は、山陰に名だたる剣客であった。それだけにまた彼の手足となる門弟の数も多かった。甚太夫はそこで惴りながらも、兵衛が一人外出する機会を待たなければならなかった。 機会は容易に来なかった。兵衛はほとんど昼夜とも、屋敷・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・ 武者修業 わたしは従来武者修業とは四方の剣客と手合せをし、武技を磨くものだと思っていた。が、今になって見ると、実は己ほど強いものの余り天下にいないことを発見する為にするものだった。――宮本武蔵伝読後。 ユウ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・合気の術は剣客武芸者等の我が神威を以て敵の意気を摧くので、鍛錬した我が気の冴を微妙の機によって敵に徹するのである。正木の気合の談を考えて、それが如何なるものかを猜することが出来る。魔法の類ではない。妖術幻術というはただ字面の通りである。しか・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・剣術の巧拙を争わん歟、上士の内に剣客甚だ多くして毫も下士の侮を取らず。漢学の深浅を論ぜん歟、下士の勤学は日浅くして、もとより上士の文雅に及ぶべからず。 また下士の内に少しく和学を研究し水戸の学流を悦ぶ者あれども、田舎の和学、田舎の水戸流・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
出典:青空文庫