・・・では菊池寛の作品には、これらの割引を施した後にも、何か著しい特色が残っているか? 彼の価値を問う為には、まず此処に心を留むべきである。 何か著しい特色? ――世間は必ずわたしと共に、幾多の特色を数え得るであろう。彼の構想力、彼の性格解剖・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・てあるのだから来年中に償還すべき事、作跡は馬耕して置くべき事、亜麻は貸付地積の五分の一以上作ってはならぬ事、博奕をしてはならぬ事、隣保相助けねばならぬ事、豊作にも小作料は割増しをせぬ代りどんな凶作でも割引は禁ずる事、場主に直訴がましい事をし・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・「ええ、大割引で勉強をしとるです。で、その、ちょっとあらかじめ御諒解を得ておきたいのですが、お客様が小人数で、車台が透いております場合は、途中、田舎道、あるいは農家から、便宜上、その同乗を求めらるる客人がありますと、御迷惑を願う事になっ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・へい、ええ、ことの外音声を痛めておりやすんで、お聞苦しゅう、……へい、お極りは五銅の処、御愛嬌に割引をいたしやす、三銭でございやす。」「高い!」 と喝って、「手品屋、負けろ。」「毛頭、お掛値はございやせん。宜しくばお求め下さ・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・「なるほど、一万円で買うて三割引で売っても七千円の新券がはいるわけだな」「しかし、とてもそれだけの本は持って帰れないから、結局よしたよ。市電の回数券には気がつかなかった」「もっとも新券、新券と珍らしがって騒いでるのも、今のうちだ・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・乗物は二等より三等を愛し、活動写真は割引時間になってから見た。料亭よりも小料理屋やおでん屋が好きで、労働者と一緒に一膳めし屋で酒を飲んだりした。木賃宿へも平気で泊った。どんなに汚ないお女郎屋へも泊った。いや、わざと汚ない楼をえらんで、登楼し・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・ もう十年にもなるだろうか、チェリーという煙草が十銭で買えた頃、テンセンという言葉が流行して、十銭寿司、十銭ランチ、十銭マーケット、十銭博奕、十銭漫才、活動小屋も割引時間は十銭で、ニュース館も十銭均一、十銭で買え、十銭で食べ十銭で見られ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・浅草へゆくと、折井は簪を買ってくれたり、しるこ屋へ連れて行ってくれたり、夜店の指輪も折井が買うと三割引だった。「こんな晩くなっちゃ、うちへ帰れないわ」 安子が云うと、折井はじゃ僕に任かせろと、小意気な宿屋へ連れて行ってくれた。部屋に・・・ 織田作之助 「妖婦」
・・・帰るきわに彼は紙入のなかから乗車割引券を二枚、「学校へとりにゆくのも面倒だろうから」と言って堯に渡した。 六 母から手紙が来た。 ――おまえにはなにか変わったことがあるにちがいない。それで正月上京なさる津枝さ・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・何年ぶりかで久し振りに割引電車の赤い切符を手にした時に、それが自分の健康の回復を意味するシンボルのような気がした。御堀端にかかった時に、桃色の曙光に染められた千代田城の櫓の白壁を見てもそんな気がした。 日比谷で下りて公園の入り口を見やっ・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫