・・・ほんとうの批評家にしか分らなければ、どこの新劇団でもストリンドベルクやイブセンをやりはしない。作の力、生命を掴むばかりでなく、技巧と内容との微妙な関係に一隻眼を有するものが、始めてほんとうの批評家になれるのだ。江口の批評家としての強味は、こ・・・ 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・ かかる折から、地方巡業の新劇団、女優を主とした帝都の有名なる大一座が、この土地に七日間の興行して、全市の湧くがごとき人気を博した。 極暑の、旱というのに、たといいかなる人気にせよ、湧くの、煮えるのなどは、口にするも暑くるしい。が、・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・もっとも現在の日本の劇作家の多くは劇団という紋切型にあてはめて書いているのか、神経が荒いのか、書きなぐっているのか、味のある会話は書けない。若い世代でいい科白の書けるのは、最近なくなった森本薫氏ぐらいのもので、菊田一夫氏の書いている科白など・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・談話の内容が、どうも文学に無関心の者のそれでは無い。劇団関係の人たちかも知れない。あるいは、高級な読者かも知れない。いずれにもせよ、笠井さんの名前ぐらいは、知っていそうな人たちである。そんな人たちのところへ、のこのこ出かけて行くのは、なんだ・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・ ☆ 成功であった。劇団は、「鴎座。」劇場は、築地小劇場。狂言は、チエホフの三人姉妹。女優、高野幸代は、長女オリガを、見事に演じた。昭和六年三月下旬、七日間の公演であった。青年、高須隆哉は、三日目に見に行った・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・ 種々な素人劇団が起るのは、「芝居道」以外の人間には時々我慢の出来ない玄人の臭味と浅薄さとを嫌うからである。併し、目指す方向は正しくても、舞台を踏んで遣りこなす教養がどうしても足りないので不具になる。近頃、女優劇と云えば、既に或る程度の・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・これらの民族の国立劇団が、自分たちの地方の生産、これを中心として行われる階級闘争を主題にした脚本をもって、やって来た。そして、幼稚であるにしても特色のある演技で大衆的喝采を博した。 然し、いずれにしろ広大なソヴェト同盟だ。辺土地方には、・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・例えば、工場内の素人劇団の数が最近夥しく殖えた。彼等は活溌に機会を捕え、その場合場合に適した題材で即興的に反宗教、反帝国主義戦争などの小芝居をやっている。が、その沢山の素人劇団の指導は、決して、理想的統一をもってされているとは云えない状態に・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・二十五日に築地で劇団葬[自注22]にきまりました。小山内薫以来のことです。鑑子さんは実にこれ迄努力をして来て、これからもしっかりやってゆくでしょうが、私はこの二三年の間に両親をそれぞれ特別な事情の下で失って、感銘深いものがありますが、しかし・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・――原泉夫妻[自注18]は四谷の大木戸ハウスというアパートで細君はトムさん[自注19]の新協劇団第一回公演では「夜明け前」に巡礼をやり、今やっているゴーゴリの芝居では何をやっているか、旦那さんの方はきっと徹夜して小説かいてるでしょう。今夜見・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫