・・・ ところが、四五日たったある朝の新聞を見ると、ズルチンや紫蘇糖は劇薬がはいっているので、赤血球を破壊し、脳に悪影響がある、闇市場で売っている甘い物には注意せよという大阪府の衛生課の談話がのっていた。 私は「千日堂」はどうするだろうか・・・ 織田作之助 「神経」
・・・半分融けかかった仁丹が、劇薬だったらと思ってみたりした。私は彼女と会うことをよそうと思った。べつに惚れているわけでも深い関係があるわけでもなかった。パトロンのある女なんか……と、軽蔑してしまえばよかったのだ。ところが、ますます会いたくなった・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・ 敏子は釣銭を渡しながら、纒めて買えば毎日来る手間もはぶけるのにと思ったが、もともとヒロポンの様な劇薬性の昂奮剤を注射する男なぞ不合理にきまっている。然し敏子の化粧はなぜか煙草屋の娘の様に濃くなった。敏子は二十七歳、出戻って半年になる。・・・ 織田作之助 「薬局」
・・・ たとえば日本士族の帯刀はおのずからその士人の心を殺伐に導き、かつまた、その外面も文明の体裁に不似合なればとて、廃刀の命を下したるが如く、政治上に断行して一時に人心を左右するは劇薬を用いて救急の療法を施すものに等しく、はなはだ至当なりと・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
出典:青空文庫