・・・ 外見 由来最大の臆病者ほど最大の勇者に見えるものはない。 人間的な 我我人間の特色は神の決して犯さない過失を犯すと云うことである。 罰 罰せられぬことほど苦しい罰はない。それも決・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・たとえば磯九郎という男は、勇者の随伴をして牛の闘を見にまいりますと、ふと恐ろしい強い牛が暴れ出しまして、人々がこれを取り押えることが出来ぬという場合、牛に向って来られたので是非なく勇者たる小文吾がその牛を取り挫いで抑えつけます。そこで人々は・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・ 澄元契約に使者に行った細川の被官の薬師寺与一というのは、一文不通の者であったが、天性正直で、弟の与二とともに無双の勇者で、淀の城に住し、今までも度たびたび手柄を立てた者なので、細川一家では賞美していた男であった。澄元のあるところへ、澄・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・Hの言うままを、勇者の如く単純に合点していたのである。友人達にも、私は、それを誇って語っていた。Hは、このように気象が強いから、僕の所へ来る迄は、守りとおす事が出来たのだと。目出度いとも、何とも、形容の言葉が無かった。馬鹿息子である。女とは・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・真の勇者、メロスよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。おまえは、稀代の不信の人間、まさしく王の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・死と相面しては、いかなる勇者も戦慄する。 脚が重い、けだるい、胸がむかつく。大石橋から十里、二日の路、夜露、悪寒、確かに持病の脚気が昂進したのだ。流行腸胃熱は治ったが、急性の脚気が襲ってきたのだ。脚気衝心の恐ろしいことを自覚してかれは戦・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・と、誰かが勇者の勢でそこから内に辷り込む。どっという笑声や喝采。あとから、あとから。ちゃんと門が開き切った時分には、恐らく誰一人往来に立って待ってはいないだろう。 入ってしまえばもう安心し、砂利の上で肱を張り張り歩いて左の方に行く。――・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・真実を語ることができる者は、最大の勇者であるという言葉をきいたが、実際、あの雰囲気の中で、三〇回近くもよばれれば検事のいうようになって、偽証罪をまぬがれたくなる。真実をいった者は偽証罪になっている。」「これは単に私が罪になる、ならないの問題・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・の作者、鋭く小市民性に反撥して人生の叡智を勇者の飛躍にあることを示した「鷹の歌」の作者、フランス・アカデミーのユーゴー百年祭にパリへ招待された国際的作家マクシム・ゴーリキイである。 ある日ゴーリキイがペテルブルグの数多い橋の一つを歩いて・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫