・・・「おッと危ない。溢れる、溢れる」「こんな時でなくッちゃア、敵が取れないわ。ねえ、花魁」 吉里は淋しそうに笑ッて、何とも言わないでいる。「今擽られてたまるものか。降参、降参、本統に降参だ」「きっとですか」「きっとだ、き・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・まだ小さいのに気が荒かったゆえ、走り廻ってばかりいて、あれ危ないと思っても止める事が出来なんだ。ああ、この窓じゃ。あの子が夜遊に出て帰らぬ時は、わたしは何時もここに立って真黒な外を眺めて、もうあの子の足音がしそうなものじゃと耳を澄まして聞い・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・「うんにゃ、危ないじゃ。も少し見でべ。」 こんなことばもきこえました。「何時だがの狐みだいに口発破などさ罹ってあ、つまらないもな、高で栃の団子などでよ。」「そだそだ、全ぐだ。」 こんなことばも聞きました。「生ぎものだ・・・ 宮沢賢治 「鹿踊りのはじまり」
・・・ 作家の主観というものは、それだけにたよっていると危ない。潮のきつい海の上で当人は一生懸命こっちへ向っていい気持に漕いでいるつもりだのに、数刻経て見たら、豈計らんやかくの如き地点に押し流されて来ていた、という場合が決して少くない。昨今従・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・そのまなざしは危ない瀬戸際で兵士たちの勇気をとり直させ、医者の沈着を支え、そして、失われそうであった命をとりとめる役にたつのであった。その死亡率を半減された兵士たちの心からなる喜びの眼に彼女が天使に見えたのは自然だった。 けれども、・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・もし私が担ぎ込まれた病院で医者に絶望されながら床の上に横たわるとしたら、そうして夜明けまで持つかどうか危ないとしたら、私はどうするだろう。逢いたい人々にも恐らく逢えまい。整理しておきたい事も今さらいかんともしようがない。自分の生涯や仕事につ・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫