・・・であるから賊になった上で又もや悶き初めるのは当然である。総て自分のような男は皆な同じ行き方をするので、運命といえば運命。蛙が何時までも蛙であると同じ意味の運命。別に不思議はない。 良心とかいう者が次第に頭を擡げて来た。そして何時も身に着・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・とは、言えなかったんだよ。だから、ね、」と又もや、両手でテエブルの上を矢鱈に撫で廻しながら、「そこんところを、嘘ついちゃったんだよ。ごめんね。留置場へ入れられた事なんかを君に言うと、君に嫌われると思ったんだ。僕は、だめなんだよ。葉山にも、い・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ち醜行紛々、甚だしきは同父異母の子女が一家の中に群居して朝夕その一父衆母の言語挙動を傍観すれば、父母の行う所、子供の目には左までの醜と見えず、娘時代に既に斯の如くにして、此娘が他に嫁したる処にて其夫が又もや不身持乱暴狼藉とあれば、恰も醜界を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ ところが丁度その時、又もや青ぞら高く、かたつむりのメガホーンの声がひびきわたりました。「王様の新らしいご命令。王様の新らしいご命令。すべてあらゆるいきものはみんな気のいい、かあいそうなものである。けっして憎んではならん。以上。」そ・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ 樺の木は折角なだめようと思って云ったことが又もや却ってこんなことになったのでもうどうしたらいいかわからなくなりただちらちらとその葉を風にゆすっていました。土神は日光を受けてまるで燃えるようになりながら高く腕を組みキリキリ歯噛みをしてそ・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・ ところが、又もやのろしが教会の方であがりました。まっ青なそらで、白いけむりがパッと開き、それからトントンと音が聞えました。けむりの中から出て来たのは、今度こそ全く支那風の五色の蓮華の花でした。なるほどやっぱり陳氏だ、お経にある青色青光・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・そして一晩睡らないで、頭のしんしん痛む豚に、又もや厭な会話を聞かせたのだ。「いつだろうなあ、早く見たいなあ。」「僕は見たくないよ。」「早いといいなあ、囲って置いた葱だって、あんまり永いと凍っちまう。」「馬鈴薯もしまってあるだ・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ こういう事情でともかく作品の発表が出来たのは、一九三九年も秋になってからであったのに、一九四一年には又もや一月から、発表禁止をうけた。太平洋戦争に突入する準備を強行していた日本絶対主義の軍事力は、極度に言論圧迫を行って、科学でも、文学・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・ 二十一歳の私がアメリカあたりで噂によれば洗濯屋だったとか皿洗いだったとか云われている東洋学専攻の男と結婚したり、その生活に苦しんで何年間も作品らしいものも書けずにいたようなことも、先生の目には又もや女がそこで足をとられた姿として、いく・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・ 孝子夫人の訃報をしらされた時、私は、思わず「ああ」と声に出した。「到頭!」 又もや、ここで、私は最も親愛なひとの一人を喪った。強くそう感じた。そして、自分のなかに、孝子夫人の俤と、様々な女性としての悲喜にみたされた生活とが、まざま・・・ 宮本百合子 「白藤」
出典:青空文庫