・・・入学試験に及第しなかったら、………「美津がこの頃は、大へん女ぶりを上げたわね。」 姉の言葉が洋一には、急にはっきり聞えたような気がした。が、彼は何も云わずに、金口をふかしているばかりだった。もっとも美津はその時にはとうにもう台所へ下・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・そうして明る年、進士の試験に及第して、渭南の尉になりました。それから、監察御史や起居舎人知制誥を経て、とんとん拍子に中書門下平章事になりましたが、讒を受けてあぶなく殺される所をやっと助かって、驩州へ流される事になりました。そこにかれこれ五六・・・ 芥川竜之介 「黄粱夢」
・・・もしもその際に、近代人の資格は神経の鋭敏という事であると速了して、あたかも入学試験の及第者が喜び勇んで及第者の群に投ずるような気持で、その不健全を恃み、かつ誇り、更に、その不健全な状態を昂進すべき色々の手段を採って得意になるとしたら、どうで・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・ 先生、及第させて、などとは書かないのである。二度くりかえして読み、書き誤りを見出さず、それから、左手に外套と帽子を持ち右手にそのいちまいの答案を持って、立ちあがった。われのうしろの秀才は、われの立ったために、あわてふためいていた。われ・・・ 太宰治 「逆行」
・・・無論及第点をつけ申し候。『なにひとつ真実を言わぬ。けれども、しばらく聞いているうちには思わぬ拾いものをすることがある。彼等の気取った言葉のなかに、ときどきびっくりするほど素直なひびきの感ぜられることがある。』という篇中のキイノートをなす一節・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・「あなたは、郷試には落第いたしましたが、神の試験には及第しました。あなたが本当に烏の身の上を羨望しているのかどうか、よく調べてみるように、あたしは呉王廟の神様から内々に言いつけられていたのです。禽獣に化して真の幸福を感ずるような人間は、神に・・・ 太宰治 「竹青」
・・・しかし比率を半分に切り下げても、研究の数が四倍になれば、博士及第者の数は二倍になるのは明白な勘定であろう。 こういう風に考えてみると、博士濫造の呼び声の高くなるのは畢竟学術研究者の総数の増加したことを意味し、従って我国における学術研究熱・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・監督官が検査に来ると現に掘っている坑道はふさいで廃坑だということにして見せないで、検査に及第する坑だけ見せる。それで検閲はパスするが時々爆発が起こるというのである。真偽は知らないが可能な事ではある。 こういうふうに考えて来ると、あらゆる・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・生徒一同もすっかりしょげてしまい恐縮してしまったのであったが、とにかくもう一ぺん試験のやり直しをすることになり、今度は普通の中学校式の問題であったから、みんなどうにか及第点をとって、それで事は落着したのであった。 たしか二年のときであっ・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・この条件に及第する樹の画があるかと思ってみても「雪」の枯枝などがやはり先ず心に浮かぶ。 見ている自分が「その絵の中に這入って行ける」ような絵はあるまいか。こう思った時に私は「上井草附近」という絵を想い出した。これに反して大変評判のよかっ・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
出典:青空文庫