・・・面白いことには、そういう実際の事情にもかかわらず、その文章に対する反駁の意味をもつ文章などだけは、それを書いた人々によって機関誌以外のいろいろな新聞、雑誌などに送られた。そういうやりかた一事を冷静に観察するだけでも、当時のプロレタリア文学運・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・作家は何でも書けばそれが現実を反映するというリアリズム論への反駁として。一月。不満と希望。一月。村からの娘。四月。新しい一夫一婦。五月。乳房。九月。小説「突堤」その他。一九三六年一月。市ヶ谷刑務所から・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・と取組みはじめたのであり、その取り組みの中から新しい武器を獲得して来ようとしているのだ、という見地から、そういう今日の流行を人生のディフォーメイションがあるのみであるとする論に反駁していられるのである。 文学におけるディフォーメイシ・・・ 宮本百合子 「文学のディフォーメイションに就て」
・・・と、反駁した。「誰でも小道徳に捕われている間は、そういう自在な境涯へは入れないんですよ」 はつ子は、自分の言葉に自分から熱くなったように、「私世の中に自分ほど面白いものはないと思いますね。自分のことを話すのだったら、どんなに・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・しかし、時に、彼等は猛烈に悪意をもってゴーリキイに反駁した。「だが、娘達が奴等について云うことたあ、まるっきり違うぞ!」 彼等の性わるな嘲弄の中には、ゴーリキイがまだ女の愛撫を経験したことがないことが、最も容赦ない材料としてとりあげ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ところが、それから幾何も経たないつい先頃、中野重治と戸坂潤の評論を反駁した文章では、この二人の評論家が民族的自覚をもっていぬと云って攻撃している。小林氏はこの自然ならぬ飛躍に於て、日本の大衆は現実を批判しようとする意慾など必要としていないと・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・という立場に立って、福沢諭吉は、十九ヵ条の一つ一つについて、反駁している。「女子の身に恥ず可きことは男子に於ても亦恥ず可き所のものなり」「男女を区別したるは女性の為に謀りて千載の憾と云うも可なり」そして、例えば「七去」についても、民法の条文・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・あなたが訳したと云うのが、事実上それを反駁したようなものではあるが、この問題について、あなたはどう思う。」私は答えた。「日本人だってファウストの思想が分からぬはずはないと思う。」キュウネマンさんの詞から推すと、ドイツ人の中のあるものは日本人・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・哲学者は急に熱心になって霊魂不滅の信仰が迷妄に過ぎないこと、この迷妄を打破しなければ人間の幸福は得られないことを説いて彼を反駁する。彼は全能の造物主を恐れないのかときく。哲学者はこの世界が元子の離合集散に過ぎないこと、現世の享楽の前には何の・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・森田、鈴木、小宮など古顔の連中は、ともすれば先生は頭が古いとか、時勢おくれだとか言って食ってかかったが、漱石は別に勢い込んで反駁するでもなく、言いたいままに言わせておくという態度であった。だからこの集まりはむしろ若い連中が気炎をあげる会のよ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫