・・・ と、茶碗が、また、赤絵だったので、思わず失言を詫びつつ、準藤原女史に介添してお掛け申す……羽織を取入れたが、窓あかりに、「これは、大分うらに青苔がついた。悪いなあ。たたんで持つか。」 と、持ったのに、それにお米が手を添えて、・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・ 省作は今日休ませてもらいたいのだけれど、この取り入れ最中に休んでどうすると来るが恐ろしいのと、省作がよく働いてくれれば、わたしは家にいて御飯がうまいとの母の気づかいを思うと休みたくもなくなる。「兄さん今日は何をしますか」「うん・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・――今年は不作だったので地子を負けて貰おう。取り入れがすんですぐ、その話があったのは彼も知っていた。それから、かなりごた/\していた。が、話がどうきまったか、彼はまだ知らなかった。 杜氏は、話す調子だけは割合おだやかだった。彼は、「・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・だから、ここで戦争文学として取扱うことは至当ではないが、たゞこれが当時の多くの大衆に愛誦された理由が、浪子の悲劇だけでなく、軍人がその中に書かれ、戦争が背景に取り入れられ、戦時気分に満たされていたことに存在するのを注意しなければならない。そ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・どことなく支那趣味の取り入れてあるところは、お三輪に取って、焼けない前の小竹の店を想い起させるようなものばかりであった。 その日は、お三輪はお力に案内されて料理場の内をもあちこちと見て廻った。お三輪もすこし疲れを覚えたが、お力夫・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・ある社で計画した今度の新しい叢書は著作者の顔触れも広く取り入れてあるもので、その中には私の先輩の名も見え、私の友だちの名も見えるが、菊版三段組み、六号活字、総振り仮名付きで、一冊三四百ぺージもあるものを思い切った安い定価で予約応募者にわかと・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ この映画に取り入れられた僅少な音楽もかなりに有効に使われている。ヒロインが病院の病室を一つ一つ見回って愛人を捜す場面で、階下から聞こえて来る土人女の廃頽的な民謡も、この場の陰惨でしかもどこかつやけのある雰囲気を濃厚にする。それから次の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・これは劇の性質上当然のことかもしれないが、舞台で行なわるる演劇とフィルム劇とは必ずしも同じでない以上、フィルムにして始めて生ずる可能性を活用するためには、もう少し天然の偶然的なプロットを巧みに生かして取り入れて、それによって必然的な効果をあ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ このようにいろいろな味のちがったものを多数に全編の中に取り入れて、趣味のちがった多数の観客の享楽に適するようにしようとすれば、どうしても多少の無理が起こりやすい。それをこのくらいにまでまとめ上げるのはやはり凡手ではできないであろう。そ・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・逆に、言葉で現わされたすべてのものがそれ自身に文学であるとは限らないまでも、そういうもので文学の中に資料として取り入れられ得ないものは一つもない。子供の片言でも、商品の広告文でも、法律の条文でも、幾何学の定理の証明でもそうである。ピタゴラス・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
出典:青空文庫