・・・いらざる取り越し苦労ばかりすると思うかもしれんが、あれほどの用意をしても世の中の事は水が漏れたがるものでな。そこはお前のような理屈一遍ではとてもわかるまいが」 なるほどそれは彼にとっては手痛い刃だ。そこまで押しつめられると、今までの彼は・・・ 有島武郎 「親子」
・・・そんな区別をするのは取り越し苦労だ。現在の問題だけを考えていれば、それでいいのだといわれれば、僕はそういった人と、考えの基礎になる気持ちが違うからしかたがないと答えるほかはない。 それからロシアにおけるプロレタリアの芸術に関する考察が挙・・・ 有島武郎 「片信」
・・・自分が年を取って後にもしかあんなになったらさぞさびしいだろうと思う、子供としてははなはだしい取り越し苦労のせいであったろうとばかりも思われない。何か幼時の体験と結びついた強い印象の影響かもしれない。 今ではもう自分自身が老人になりかけて・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・これは昔天が落ちて来はしないかと心配した杞の国の人の取り越し苦労とはちがって、あまりに明白すぎるほど明白な、有限な未来にきたるべき当然の事実である。たとえばやや大きな地震があった場合に都市の水道やガスがだめになるというような事は、初めから明・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・内地でもいつかはこの種の建築物の保存期限が切れるであろうが、そうした時の始末が取り越し苦労の種にはなりうるであろう。コンクリート造りといえども長い将来の間にまだ幾多の風土的な試練を経た上で、はじめてこの国土に根をおろすことになるであろう。試・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
出典:青空文庫