・・・トルストイのような古今無双の天才でも、自分が実際行ったセバストポールと、想像と調査が書いた「戦争と平和」に於ける戦争とには、段がついている。「セバストポール」には、本当にその場に行き合わしたものでなければ出せないものがある。それが吾々を・・・ 黒島伝治 「愛読した本と作家から」
当世の大博士にねじくり先生というがあり。中々の豪傑、古今東西の書を読みつくして大悟したる大哲学者と皆人恐れ入りて閉口せり。一日某新聞社員と名刺に肩書のある男尋ね来り、室に入りて挨拶するや否、早速、先生の御高説をちと伺いたし、・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・ 而して先生は古今の記事文中、漢文に於ては史記、邦文では「近松」洋文ではヴォルテールの「シヤル・十二世」を激賞して居た。四 先生の文章は其売れ高より言えば決して偉大なる者ではなかった。先生の多くの著訳書中、其所謂「生・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・流石に、古今の名描写であります。背後の男の、貪婪な観察の眼をお忘れなさらぬようにして、ゆっくり読んでみて下さい。 女学生が最初に打った。自分の技倆に信用を置いて相談に乗ったのだと云う風で、落ち着いてゆっくり発射した。弾丸は女房の立ってい・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・夢想家が、この世で成功したというためしは、古今東西にわたって、未だ一つも無かったと言ってよい。けれども山崎氏は、不思議にも、いま、成功して居られる様子であります。山崎氏の父祖の遺徳の、おかげと思うより他は無い。ちなみに、書房の名の砂子屋は、・・・ 太宰治 「砂子屋」
・・・ 理屈はぬきにして古今東西を通ずる歴史という歴史がほとんどあらゆる災難の歴史であるという事実から見て、今後少なくも二千年や三千年は昔からあらゆる災難を根気よく繰り返すものと見てもたいした間違いはないと思われる。少なくもそれが一つの科学的・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・尤も『土佐古今の地震』という書物に、著者寺石正路氏が明治三十二年の颱風の際に見た光り物の記載には「火事場の火粉の如きもの無数空気中を飛行するを見受けたりき」とあるからこれはまた別の現象かもしれない。 非常な暴風のために空気中に物理的な発・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・窘められた嫁が姑になってまた嫁を窘める。古今同嘆である。当局者は初心を点検して、書生にならねばならぬ。彼らは幸徳らの事に関しては自信によって涯分を尽したと弁疏するかも知れぬ。冷かな歴史の眼から見れば、彼らは無政府主義者を殺して、かえって局面・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・先生はこんな事を考えるのでもなく考えながら、多年の食道楽のために病的過敏となった舌の先で、苦味いとも辛いとも酸いとも、到底一言ではいい現し方のないこの奇妙な食物の味を吟味して楽しむにつけ、国の東西時の古今を論ぜず文明の極致に沈湎した人間は、・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・蕩子のその醜行を蔽うに詩文の美を借来らん事を欲するのも古今また相同じである。揚州十年の痴夢より一覚する時、贏ち得るものは青楼薄倖の名より他には何物もない。病床の談話はたまたま樊川の詩を言うに及んでここに尽きた。 縁側から上って来た鶏は人・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
出典:青空文庫