・・・ところへ連れて行って、丈を嘉助とくらべてから嘉助とそのうしろのきよの間へ立たせました。 みんなはふりかえってじっとそれを見ていました。 先生はまた玄関の前に戻って、「前へならえ。」と号令をかけました。 みんなはもう一ぺん前へ・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ これはたしかに間違いで、一疋しか居りませんでしたし、それも決してのどが壊れたのではなく、あんまり永い間、空で号令したために、すっかり声が錆びたのです。それですから烏の義勇艦隊は、その声をあらゆる音の中で一等だと思っていました。 雪・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・果樹整枝法、その一、ピラミッド、一の号令でこの形をつくる。二で直るいいか」大将両腕を上げ整枝法のピラミッド形をつくる。大将「いいか。果樹整枝法、その一、ピラミッド。一、よろし。二、よろし、一、二、一、二、一、やめい。」大・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ あっちでもこっちでも号令をかける声ラッパのまね、足ぶみの音それからまるでそこら中の鳥も飛びあがるようなどっと起るわらい声、虔十はびっくりしてそっちへ行って見ました。 すると愕ろいたことは学校帰りの子供らが五十人も集って一列になって・・・ 宮沢賢治 「虔十公園林」
・・・幾万をもって数えられるかと思う白い墓標は、その土の下に埋った若者たちがまだ兵卒の服を着て銃を肩に笑ったり、苦しんだりしていたとき、号令に従って整列したように、白い不動の低い林となって列から列へと並んでいる。襟に真鍮の番号をつけられていたその・・・ 宮本百合子 「女靴の跡」
・・・という標語を示した時、母たるドイツの勤労女性の生活苦闘の衷心からの描き手であったケーテ・コルヴィッツは、どんな心持で、この侵略軍人生産者としてだけ母性を認めたシュペングラーの号令をきいただろうか。その頃から日本権力も侵略戦争を進行させていて・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ほんとうに私たちは号令に飽きた。よくもあしくも強制にはこりた。 だが、そもそも私たち人間がギリシアの時代からもちつたえ展開させ、神話よりついに科学として確立させたこの社会についての学問、社会科学とその究明よりもたらされる将来の構成への展・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・人間の智慧がこしらえられるものは、武器と牢獄とであり、人々の間に響く声といえば号令だとしか考えなかった。ましてや、人民解放のために生涯を捧げた解放者の像などはない。 明治末期から大正にかけて、日本のブルジョア・インテリゲンツィアの文学の・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・ と号令をかけてやったんだそうだからなあ……」 意味深長に、威脅的に云った。「どうも世の中の方はどんどん進んで行くね、あなたもそうやって坐ってるうちに、いつの間にかおいてきぼりをくいますよ、ひ、ひ、ひ」 新聞を見せて呉れというと・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・そこを坂下からこちらへ十人ばかりの陸軍の兵隊が、重い鉄材を積んだ車を曳いて登って来ると、栖方の大尉の襟章を見て、隊長の下士が敬礼ッと号令した。ぴたッと停った一隊に答礼する栖方の挙手は、隙なくしっかり板についたものだった。軍隊内の栖方の姿を梶・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫