・・・ 婆さんは手を揃えて横の方で軽く払き、「刎上りますようなのに控え込んで、どうまた度胸が据りましたものか澄しております処へ、ばらばらと貴方、四五人入っておいでなすったのが、その沢井様の奥様の御同勢でございまして。 いきなり卓子の上・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ 二時間経って、客とその傘で出て来た。同勢五人、うち四人は女だが、一人は裾が短く、たぶん大阪からの遠出で、客が連れて来たのであろう。客は河豚で温まり、てかてかした頬をして、丹前の上になにも羽織っていなかった。鼻が大きい。 その顔を見・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・ 今井の叔父さんがみんなの中でも一番声が大きい、一番元気がある、一番おもしろそうである、一番肥っている、一番年を取っている、僕に一番気に入っていた。 同勢十一人、夜の十時ごろ町を出発た。町から小一里も行くとかの字港に出る、そこから船・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・ 明日は日曜。同勢四五人舟で押出す約束であるが、お露も連れこみたいものだ。 大河今蔵の日記は以上にて終りぬ。彼は翌日誤って舟より落ち遂に水死せるなり。酔に任せ起って躍りいたるに突然水の面を見入りつ、お政々々と連呼してそのまま顛落・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・其同勢のうちにお石は必ず居たのである。晩秋の収穫季になると何処でも村の社の祭をする。土地ではそれをマチといって居る。マチは村落によって日が違った。瞽女はぐるぐるとマチを求めて村々をめぐる。太十の目には田の畔から垣根から庭からそうして柿の木に・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・ 西村の祖母、母、子供三人の同勢はそこへ出かけて、子供らは、生れてはじめて海岸の巖の間で波と遊ぶ面白さを味った。 お寺の座敷の横は深い竹藪であった。裏に蓮池があった。蓮の実をぬいて喰べることをお寺の小僧から習った。雨が降ると、寺の低・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・ この年の九月にマリアは母や叔母たちおきまりの同勢でミケランジェロの四百年祭を見るためにイタリーのフロレンス市へ旅行した。趣味のある娘ならその前で讚美するのがきまりとなっているラファエルの聖母を、マリアははっきり自分は不自然だからきらい・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
出典:青空文庫