・・・もし以上の如き珍々先生の所論に対して不同意な人があるならば、請う試みに、旧習に従った極めて平凡なる日本人の住家について、先ずその便所なるものが縁側と座敷の障子、庭などと相俟って、如何なる審美的価値を有しているかを観察せよ。母家から別れたその・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・さあ上ろうと同意する。上れば上るほど怪しい心持が起りそうであるから。 四階へ来た時は縹渺として何事とも知らず嬉しかった。嬉しいというよりはどことなく妙であった。ここは屋根裏である。天井を見ると左右は低く中央が高く馬の鬣のごとき形ちをして・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・私は復古癖の人のように、徒らに言語の純粋性を主張して、強いて古き言語や語法によって今日の思想を言い表そうとするものに同意することはできない。無論、古語というものは我々の言語の源であり、我民族の成立と共に、我国語の言語的精神もそこに形成せられ・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・民法親族編第七百七十一条に、子カ婚姻ヲ為スニハ其家ニ在ル父母ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但男ハ満三十年女ハ満二十五年ニ達シタル後ハ此限ニ在ラスとあり。婚姻は人間の大事なれば父母の同意即ち其許なくては叶わず、なれども父母の意見を以て・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・蕪村は徂徠ら修辞派の主張する、文は漢以上、詩は唐以上と言えるがごとき僻説には同意するものにあらざるべけれど、唐以上の詩をもって粋の粋となしたること疑いあらじ。蕪村が書ける春泥集の序の中に曰く、彼も知らず、我も知らず、自然に化して俗を・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ それは家畜撲殺同意調印法といい、誰でも、家畜を殺そうというものは、その家畜から死亡承諾書を受け取ること、又その承諾証書には家畜の調印を要すると、こう云う布告だったのだ。 さあそこでその頃は、牛でも馬でも、もうみんな、殺される前の日・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・行ったのですが、私はどちらかというと椅子の生活が好きな方で、恰度近いところに洋館の空いているのを見つけ私の注文にはかなった訳ですが、私と一緒にいる友達は反対に極めて日本室好みで、折角説き落して洋館説に同意して貰ったまではよかったのですが、見・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・診断は僕もお上さんに同意します。両側下顎脱臼です。昨夜脱臼したのなら、直ぐに整復が出来る見込です」「遣って御覧」 花房は佐藤にガアゼを持って来させて、両手の拇指を厚く巻いて、それを口に挿し入れて、下顎を左右二箇所で押えたと思うと、後・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・悲しげな女の目には近所の人達の詞に同意する表情が見えた。そしてこう云った。「難有うございます。皆さんが御親切になすって下すって難有うございます。」ユリアはまだその上にこう云った。「警部さん。あなたはこうなった方が、かえってよいかも知れないと・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・偶像の迷信を彼が攻撃すると、哲学者も迷信の弊を認めて同意する。彼はそれに力を得てイエスの復活を説き立てる。哲学者は急に熱心になって霊魂不滅の信仰が迷妄に過ぎないこと、この迷妄を打破しなければ人間の幸福は得られないことを説いて彼を反駁する。彼・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫