・・・左近はまず甚太夫の前へ手をつきながら、幾重にも同道を懇願した。甚太夫は始は苦々しげに、「身どもの武道では心もとないと御思いか。」と、容易に承け引く色を示さなかった。が、しまいには彼も我を折って、求馬の顔を尻眼にかけながら、喜三郎の取りなしを・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・ 翁は漢学者に似気ない開けた人で、才能を認めると年齢を忘れて少しも先輩ぶらずに対等に遇したから、さらぬだに初対面の無礼を悔いていたから早速寒月と同道して露伴を訪問した。老人、君の如き異才を見るの明がなくして意外の失礼をしたと心から深く詫・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・ぬ 観ずれば松の嵐も続いては吹かず息を入れてからが凄まじいものなり俊雄は二月三月は殊勝に消光たるが今が遊びたい盛り山村君どうだねと下地を見込んで誘う水あれば、御意はよし往なんとぞ思う俊雄は馬に鞭御同道仕つると臨時総会の下相談からまた狂い・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・「明日のオペラ座の切符手に入り候に付、主人同道お誘いに参り可申候、何卒御待受被下度候。母上様」と云うのでした。お母あ様の所へ出す手紙を、あなたはわたくしの部屋に落してお置きになったですねえ。 女。おや。そうでしたか。あの手紙はあなたの所・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
出典:青空文庫