・・・春桃が李茂を連れて来たのは、親たちのつき合い仲間への義理や同郷のよしみからであった。「あんたがわたしを女房だと云っても、わたしは云いません」そして、春桃は泣いた。「あんたが片輪だからって、にべない仕打ちは私に出来ない。ただわたしは、あの・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・宮島氏と父とは同郷であり、親しかったので、私は自分の下宿へ、この国際連盟委員を招待し、アルコールランプで、鶏のすきやきをこしらえ、馬車に並んでのって、モスク市中見物のお伴をした。とりは大変かたかった。 正月、大使館のひとに逢ったらジェネ・・・ 宮本百合子 「時計」
同郷人の懇親会があると云うので、久し振りに柳橋の亀清に往った。 暑い日の夕方である。門から玄関までの間に敷き詰めた御影石の上には、一面の打水がしてあって、門の内外には人力車がもうきっしり置き列べてある。車夫は白い肌衣一・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫