・・・この大阪の系統が文壇に君臨している光景は、私たち大阪の末輩にとってはありがたいことであった。宇野、川端以後の武田麟太郎――といえるのは、しかし「雪の話」一巻が出てからではなかったか。巧い、巧い、巧すぎるほどの「雪の話」であった。「雪の話・・・ 織田作之助 「武田麟太郎追悼」
・・・それで其等の勢力が愛郷土的な市民に君臨するようになったか、市民が其等の勢力を中心として結束して自己等の生活を安固幸福にするのを悦んだためであるか、何時となく自治制度様のものが成立つに至って、市内の豪家鉅商の幾人かの一団に市政を頼むようになっ・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・たいていの花では子房が花の中央に君臨しているものと思っていたのに、この植物ではおしべが中軸にのさばっていてめしべのほうが片わきに寄生したようにくっついているのである。ところが、また別の茎を取って点検してみると、花が盛りを過ぎてすでに受胎を終・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・しかし自分のおもしろいと思うのは、この定座の月と花とが往々具体的な自然現象としてではなくむしろ非常に抽象的な正と負の概念としてこの定座の位置に君臨している観があるということである。もちろんそうでない場合もまたはなはだ多いようであるがだいたい・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・工場は無管理状態に君臨されている。工場が燃料に欠乏を感じぬ日は一日もない。工場用の水はきたない。そのために製造したバタの品質が低下する。上ナザロフ村にもう一つバタ工場がある。そこの建物はひどい有様だ。扉はこわれている。寒くて働けぬ。・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ こういう時代錯誤的な切ない風景を街に現出した根源には戦争による国民経済の破壊があり、そこに君臨した制服万能の問題があることをわたしたちは決して見のがしてはならないと思う。制服というものは土台、一人一人の人格や個性、その人の人生を抹殺し・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・飾りなくいえばはっきり通俗であるものが、何となし只通俗ではないのだ、という様子ぶった身構えで登場していて、この三四年間の健全な文芸批評を失った読者の、半ば睡り、半ば醒めかかっている文学愛好心の上に君臨していると思われる。純文学の仕事をする作・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・ジイドは、信じられぬ程の偏執で、その必要は、スターリンの犠牲であり、欺かれたもの達である労働者の上に死刑執行人と、搾取者とが君臨して「ロシアの労働者は幸福であると、フランスの労働者に信ぜしめる為の莫大な宣伝費をつか」うためであると云っている・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・「女王は女王らしく泰然として一家に君臨し、悠然として奉仕されているのこそ身分柄定められた掟でもあり云々」と「繊手に爆弾をとりあげては見たものの」投げる対手はないことになって「時津風枝も鳴らさぬ平和主義」の主観的女権尊崇の栄光を讚していられる・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・女に対して荒々しく君臨する男は、いつの時代も男の中の男とはいえませんでした。日本は明治のはじめより、軍国主義につつまれていて、封建的な男らしさは、明治になっても軍人としての男らしさによりかえられたままでした。女性を憐れむばかりではなく、半身・・・ 宮本百合子 「自然に学べ」
出典:青空文庫