・・・――鷭が命乞いに来た、と思って堪えてくれ、お澄さん、堪忍してくれたまえ。いまは、勘定があるばかりだ、ここの勘定に心配はないが、そのほかは何にもない。――無論、私が志を得たら……」「貴方。」 とお澄がきっぱり言った。「身を切られる・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたい・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・親の命乞いをするのだと言っています」と、門番がかたわらから説明した。 与力は同役の人たちを顧みて、「ではとにかく書付を預かっておいて、伺ってみることにしましょうかな」と言った。それにはたれも異議がなかった。 与力は願書をいちの手から・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫