・・・その哺乳、その愛撫、その敵からの保護の心づかい、私は見ていて涙ぐましくさえなる。向ヶ丘遊園地で見た母猿の如きはその目や、眉や、頬のあたりに柔和な、精神性のひらめきさえ漂うているような気がした。 母親の抱擁、頬ずり、キッス、頭髪の愛撫、ま・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・婦人には月々の生理週間と妊娠と分娩後の静養と哺乳との、男子にはない特殊事情がある。これは自然が婦人に課したる特殊負荷であって厳粛なものでありこれがある以上、決して、職業の問題について、男子と婦人とを同一に考えるべきものではない。この意味にお・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・是れは財産の問題にして、金さえあれば家事を他人に託して独り学を勉む可しと言うも、女子の身体、男子に異なるものありて、月に心身の自由を妨げらるゝのみならず、妊娠出産に引続き小児の哺乳養育は女子の専任にして、為めに時を失うこと多ければ、学問上に・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・又我々だって無期徒刑じゃない、人類の仲間からと哺乳動物組合、鳥類連盟、魚類事務所などからまで勲章や感謝状を沢山贈られる訳です。どうです。おわかりになったらあなたもビジテリアンにおなりなさい。」 すると前の論士が立ちあがりました。大へん悔・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・彼女等は、先ず、出来る丈深い専門的知識から、子供に必要な、哺乳、散歩、沐浴、衣服交換等の時間表を拵えます。発育に従って種々な変動は起っても、兎に角大体子供の時間表に準じて、今度は自分の仕事を割り当てます。保姆を置くような家庭では、主婦の自由・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・そうして、ここにも首なき母親の哺乳が語られるのである。しかし新王が十二年の旅から帰って来て妃の運命を知った時には、話はまた違ってくる。新王はただ一人で妃の探索に出かけ、妃の夢の告げによって山中で妃の白骨と十二歳になった王子とを見いだすのであ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫