・・・ 蒹葭は秋より冬に至って白葦黄茅の景を作る時殊に文雅の人を喜ばす。流行唄にも「枯野ゆかしき隅田堤」というのがある。「心も晴るる夜半の月、田面にうつる人影にぱつと立つのは、アレ雁金の女夫づれ。」これは畢竟枯荻落雁の画趣を取って俗謡に移し入・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・そしてそれが又彼女を暗黒的に喜ばすのだ。」 此は、人が快感を以て行なう寛裕と云う態度の中の、或点を考えさせるものではあるまいか、特に愛して居る者の間に於ては。女性と男性との差は、斯う云う心持に於ても何か異っては居ないだろうか・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・ 故国から来る贈物は、自分の生れたところから来た物と、自分をいつも愛して下さる両親の心遣いで送られたものという二重の意味を以て、私の心を喜ばすのである。 此も旅に居なければ味えない心持であろう。 今年は、珍らしく五つになる妹の御・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・ 今や諧謔の徒は周囲の人を喜ばすためにかれをして『糸くず』の物語をやってもらうようになった、ちょうど戦場に出た兵士に戦争談を所望すると同じ格で。あわれかれの心は根底より壊れ、次第に弱くなって来た。 十二月の末、かれはついに床についた・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・ 夢の効果 愛人を喜ばすには、「私は昨夜あなたの夢を見ましたよ。」と云うが良い。 なお喜んで貰うためには、「私はこれからあなたの夢を毎夜見ようと思います。」と云うが良い。 またもし彼女と争うた場合には、・・・ 横光利一 「夢もろもろ」
出典:青空文庫