・・・しかも納屋衆は殆ど皆、朝鮮、明、南海諸地との貿易を営み、大資本を運転して、勿論冒険的なるを厭わずに、手船を万里に派し、或は親しく渡航視察の事を敢てするなど、中々一ト通りで無い者共で無くては出来ぬことをする人物であるから、縦い富有の者で無い、・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・この両端にさまよって、不定不安の生を営みながら、自分でも不満足だらけで過ごして行く。 この点から考えると、世の一人生観に帰命して何らの疑惑をも感ぜずに行き得る人は幸福である。ましてそれを他人に宣伝するまでになった人はいよいよ幸福である。・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・佐吉さんの兄さんは沼津で大きい造酒屋を営み、佐吉さんは其の家の末っ子で、私とふとした事から知合いになり、私も同様に末弟であるし、また同様に早くから父に死なれている身の上なので、佐吉さんとは、何かと話が合うのでした。佐吉さんの兄さんとは私も逢・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・作者は疲れて、人生に対して、また現実のつつましい営みに対して、たしかに乱暴の感情表示をなして居るという事は、あながち私の過言でもないと思います。 もう一つ、これは甚だロマンチックの仮説でありますけれども、この小説の描写に於いて見受けられ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・中畑さんは、間もなく独立して呉服商を営み、成功して、いまでは五所川原町の名士である。この中畑さん御一家に、私はこの十年間、御心配やら御迷惑やら、実にお手数をかけてしまった。私が十歳の頃、五所川原の叔母の家に遊びに行き、ひとりで町を歩いていた・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・一点にごらぬ清らかの生活を営み、友にも厚き好学の青年、創作に於いては秀抜の技量を有し、その日その日の暮しに困らぬほどの財産さえあったのに、サラリイマンを尊び、あこがれ、ついには恐れて、おのが知れる限りのサラリイマンに、阿諛、追従、見るにしの・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・蟻のような人間、昆虫のような自動車が生命の営みにせわしそうである。 高い建物の出現するのははなはだ突然である。打ち出の小槌かアラディンのランプの魔法の力で思いもよらぬ所にひょいひょいと大きなビルディングが突然現われる。建物は実は長い間に・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・そんな重大な役目を他人のために勤めたとは夢にも知らない虻は、ただ自分の刻下の生活の営みに汲々として、また次の花を求めては移って行くのである。自然界ではこのように、利己がすなわち利他であるようにうまく仕組まれた天の配剤、自然の均衡といったよう・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・人間の場合においては、球技を職業とする人は格別、普通にはとにかく不生産的の遊戯であり、日常生活の営みからの臨時転向である。こう思ってしまえば誠に簡単であるが、自分にはどうもそうばかりとは思われない。人間が色々な球を弄ぶことに興味を感じるのに・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・を叫び、そうして花嫁を呼び迎える鳥類もある。 エゴイストが自由を欲するのは、やはり自分の領域を確保したいからである。そうしてそれは、少なくも学者や芸術家の場合では、やはり精神的の「巣」を営み、精神的の「子供」を生みたいという本能の命令に・・・ 寺田寅彦 「破片」
出典:青空文庫