・・・ こういうことから考えてみると、この絵巻物は、一方では勧善懲悪の教訓を含んでいると同時に、また一方ではおそらく昔の戦乱時代の武将などに共通であったろうと思われる嗜虐的なアブノーマル・サイコロジーに対する適当な刺戟として役立ったものであろ・・・ 寺田寅彦 「山中常盤双紙」
・・・について見ても実際の生活の場面での問題、島木氏が悲壮な闘士のポーズとして描き出している心理の観照的態度、嗜虐性等は真の意味での健全な闘志の表現としては、少からずいかがわしいものであった。個人的な話の間に何時であったか私は「盲目」の終りの部分・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・ あんな男が云々というあなたの言葉は、空中を切る鞭のような響きを立てる云いかたかもしれないが、私は歴史というものに対してもっと嗜虐的でない感情を抱いております。私たち共通の未熟さというものについては、あなたもよく御承知のとおり、一人の女・・・ 宮本百合子 「不必要な誠実論」
・・・そういう仕方で目の錯覚、物忌み、嗜虐性、喫煙欲というような事柄へも連れて行かれれば、また地図や映画や文芸などの深い意味をも教えられる。我々はそれほどの不思議、それほどの意味を持ったものに日常触れていながら、それを全然感得しないでいたのである・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
出典:青空文庫