・・・彼等は、車を廻す二十日鼠であった。 彼等は根限り駆ける! すると車が早く廻る。ただそれ丈けであった。車から下りて、よく車の組立を見たり「何のために車を廻すか?」を考える暇がなかった。 秋山も小林も極く穏かな人間であった。秋山は子供を・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・またがちっととってを回すと、模型はこんどは大きなむかでのような形に変わりました。 みんなはしきりに首をかたむけて、どうもわからんというふうにしていましたが、ブドリにはただおもしろかったのです。「そこでこういう図ができる。」先生は黒い・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・誰かがまた掻き廻す。もうない。あとは茶色だし少し角もある。ああいいな。こんなありがたい。あんまり溯る。もう帰ろう。校長もあの路の岐れ目で待っている。〔ほう。戻れ。ほう。〕向うの崖は明るいし声はよく出ない。聞えないようだ。市野川やぐんぐん・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・ 大理石の卓子の上に肱をついて、献立を書いた茶色の紙を挾んである金具を独楽のように廻していた忠一が、「何平気さ、うんと仕込んどきゃ、あと水一杯ですむよ」 廻すのを止め、一ヵ所を指さした。「なあに」 覗いて見て、陽子は笑い・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・人々を振りほどいてまた、粗朶火をふり廻す。勘助は、黙って考えていたが、はっきり勇吉の耳元で叫んだ。「なる程、おらわるかった。折角おめえこの家焼きてえちゅうに止めだてしてわるかった。おらもじゃあ手伝ってくれべえよ」 勘助も粗朶火を手に・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・済んだのは、検印をして、給仕に持たせて、それぞれ廻す先へ廻す。書類中には直ぐに課長の処へ持って行くのもある。 その間には新しい書類が廻って来る。赤札のは直ぐに取り扱う。その外はどの山かの下へ入れる。電報は大抵赤札と同じようにするのである・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・もう夜になって小萩が来ても、手伝うにおよばぬほど、安寿は紡錘を廻すことに慣れた。様子は変っていても、こんな静かな、同じことを繰り返すような為事をするには差支えなく、また為事がかえって一向きになった心を散らし、落ち着きを与えるらしく見えた。姉・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・彼の爪が勃々たる雄図をもって、彼の腹を引っ掻き廻せば廻すほど、田虫はますます横に分裂した。ナポレオンの腹の上で、東洋の墨はますますその版図を拡張した。あたかもそれは、ナポレオンの軍馬が破竹のごとくオーストリアの領土を侵蝕して行く地図の姿に相・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・母屋のなりして、株内へ廻すってことがあるかい。」「母屋や、阿呆たれよ、どこがどう母屋や。それを検べてから云うて来い。」「安次が母屋母屋云うてりゃ、それで分ってるこっちゃ。何も母屋やないもの頼って来る理窟があるか。」「そんなもの、・・・ 横光利一 「南北」
・・・身のとろけるような艶な境地にすべての肉の欲を充たす人がうらやまれている時、道学先生はいやな眼つきで人を睨め回す。 いずれが善、いずれが悪、人の世は不可解である。この人の世に生まれて「人」として第一義に活動せんとするものは、一度は人生問題・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫