・・・ 半分に焼けた大きな栗の木の根もとに、草で作った小さな囲いがあって、チョロチョロ赤い火が燃えていました。 一郎のにいさんは馬を楢の木につなぎました。 馬もひひんと鳴いています。「おおむぞやな。な。なんぼが泣いだがな。そのわろ・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ 半分に焼けた大きな栗の木の根もとに、草で作った小さな囲いがあって、チョロチョロ赤い火が燃えていました。 兄さんは牛を楢の木につなぎました。 馬もひひんと鳴いています。「おおむぞやな。な。何ぼが泣いだがな。さあさあ団子たべろ・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
・・・助手は囲いの出口をあけごく叮寧に云ったのだ。「少しご散歩はいかがです。今日は大へんよく晴れて、風もしずかでございます。それではお供いたしましょう、」ピシッと鞭がせなかに来る、全くこいつはたまらない、ヨークシャイヤは仕方なくのそのそ畜舎を・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・その感じを更に強め享楽するために、私は机だの小屏風だのを持ち出して、薄暗い隅に一層暗い囲いを拵えた。すっかり囲って狭い一方だけが開いている。そこが洞の出入口だ。私は一人の母で小さい息子とそこに隠れている。何から?――シッ! そんな大きい声を・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・く永年に亙っての実力のために、日本人はこれまでの誇りとして自認している勇気を更に多様な沈着な粘りつよく周密なものとしての面に発揮してゆかなければならないでしょうし、社会事情の複雑さについて却って、その囲いのなかで一般の精神が鋭意を喪い、単純・・・ 宮本百合子 「歳々是好年」
・・・ 西角は、ひどく塵のたかった銀行の鉄窓と、建築にとりかかったばかりの有名な時計屋の板囲いとに、占められている。 晴やかな朝日は、そのじじむさい銀行の鉄窓の棧と、板囲いのざらざらした面とを照した。午後になると、熟した太陽の光は微に濁っ・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・新建築の板囲いが出来る。道路拡張で目じるしにしておいたボロ建物がとりはらわれる。歩いているうちに此方まで元気になって来るような建設の活気がモスクワ中に溢れている。 並木道を家まで歩いて帰った。 爽やかな秋風の並木道のベンチに女がゆっ・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・ 独占的な、封鎖的な古風な男の愛情にとらえられて、おれの女房という狭く息苦しい囲いの中に入れられる生活への嫌悪と恐怖は、今日の娘たちに、いわゆるさばけた人を良人として求めさせている。だが、日本の社会の環境が負っている歴史の性質から、その・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・ 河岸通りに向いた方は板囲いになっていて、横町に向いた寂しい側面に、左右から横に登るようにできている階段がある。階段はさきを切った三角形になっていて、そのさきを切ったところに戸口が二つある。渡辺はどれからはいるのかと迷いながら、階段を登・・・ 森鴎外 「普請中」
出典:青空文庫