・・・日本と仏蘭西とは国情を異にしている。大正改元の頃にはわたくしも年三十六、七歳に達したので、一時の西洋かぶれも日に日に薄らぎ、矯激なる感動も年と共に消えて行った。その頃偶然黒田清輝先生に逢ったことがあるが「君も今の中に早く写真をうつして置け。・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・しかし、それはイギリスという国情、キリスト教の伝統、及ヨーロッパ戦争という諸条件の後に炭坑夫の息子ローレンスを生んだのであって、日本の自由主義と民主主義とを知らず、又一方に於てキリスト教の女性崇拝の伝統をも持たない社会の現実の中では、生活的・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・先頃亡くなった中華のゴーリキイと言われた作家魯迅の存在は、全く以上のような特殊な国情を反映していた。 さて、では日本に於けるヒューマニズムはどういう展望の下に置かれているであろうか。非常に複雑なものがある。第一日本では政治上の人民戦線が・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムの諸相」
出典:青空文庫