・・・ 答 彼女は書肆ラック君の夫人となれり。 問 彼女はいまだ不幸にもラックの義眼なるを知らざるなるべし。予が子は如何? 答 国立孤児院にありと聞けり。 トック君はしばらく沈黙せる後、新たに質問を開始したり。 問 予が家は如・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・今に、国立公園になるというんで、郷土的な名誉心をそそられたりした。 便所のところで、剣が、ガチャガチャ鳴った。「オイ、来いというのにどうして来ねえんだい!」三時間もすると、又、巡査がやって来た。「ハア。」「こんなところに、勝・・・ 黒島伝治 「名勝地帯」
・・・少なくも科学や技術方面の書物だけでもさし当たってそうしてほしいと思う。国立図書館といったようなものと少なくも同等な機関として必要なものでありはしないか、こういう虫のいい空想も起こるくらいに不便を感じる場合が多いのである。 若いおそらく新・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ 日本の山水美が火山に負うところが多いということは周知のことである。国立公園として推された風景のうちに火山に関係したもののはなはだ多いということもすでに多くの人の指摘したところである。火山はしばしば女神に見立てられる。実際美しい曲線美の・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・がっしりとした門にソヴェト同盟の国標、鎚と鎌をぶっちがえにしたものを麦束でとりかこんだ標がかかげてあり、その上に、ドン国立煙草工場と金字で書いてある。門衛がいるが、一向意地わるそうでもないし、うたぐり深い目つきもしていない。「受付はどこ・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・グリュントゲンスは才能はあったが、あとではナチスに加って、ベルリン国立劇場支配人と立身したような性格であったため、エリカの結婚生活はながくつづかず、離婚して故郷のミュンヘンにかえった。そして、国立劇場や小劇場に出演した。ショウの「セント・ジ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ いろいろ面白い農村新生活の記録の報告が現れた。国立出版所は、五カペイキや二十カペイキの廉価版を作って、それ等を売り出した。『集団農場・暁』十五カペイキ。集団農場・暁が、つい附近の富農の多い村と対抗しつつどんな困難のうちに組織された・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・農場の広っぱに国立出版所の赤い星で飾った売店があって、本や雑誌をうっている。 働くばかりではない。文化も高まって来るのがソヴェト同盟の農民の生活である。私は、クリミヤ地方を旅行した時見た農民のための療養院の話もした。海に、面して眺望絶佳・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・左手につづく国立物品販売所の正面には、イルミネーションで、万国の労働者団結せよ!と、書き出されている。 広場の土は数十万の勤労者の足に踏みしだかれ、ポコポコになって、昼間の熱気を含んでいる。ところどころに急設された水飲場・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・伯林の国立銀行の広間の人ごみの間で、私は不図自分にそそがれている視線を感じ、振りかえってその方を見たら、そこにはまがうかたなき漱石の面影をもった一人の若者が佇んでいた。ヴァイオリンが上手だときいた漱石の長男とはこのひとか。どちらかというと背・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
出典:青空文庫