・・・ トロッコの上には土工が二人、土を積んだ後に佇んでいる。トロッコは山を下るのだから、人手を借りずに走って来る。煽るように車台が動いたり、土工の袢天の裾がひらついたり、細い線路がしなったり――良平はそんなけしきを眺めながら、土工になりたい・・・ 芥川竜之介 「トロッコ」
・・・ お父さんはいるのかい。 ウン、いるよ。 何をしているのだい。 毎日亀有の方へ通って仕事している。 土工かあるいはそれに類した事をしているものと想像された。 お前のお母さんは亡くなったのだネ。 ここに至ってわが手・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・あの池から、一つの狭い谷が北のほうへ延びて、今の動物地質教室の下から弥生町の門のほうへ続いていた事が、土工の際に明らかになったそうである。この池の地学的の意味についても、構内のボーリングの結果などを総合して考えてみたら、あるいは何事かわかり・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・更に料理人、理髪師、土工等あらゆる階級の人々にとっての文学表現の形式となり得ている、その様式の浸透を、窪田氏は超階級性と見ておられるのであるが、直ちに、作歌上からむずかしさのために過去の歌でさけられて来ている職業を取材したものの多いのは、現・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫