・・・或る意味では、さきに触れたような人間発展の明確、強烈な意欲として恋愛を自覚するほど、猶更周囲にふさわしい対手、質の均衡した生活感情の持ち主の乏しいことを痛感するかもしれないのである。では恋愛の低さに馴れ合ってしまったらどうであろうか。もし彼・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・谷川徹三氏はその「文化均衡論」で、現代は民衆の文化水準と知識人の文化水準とが、社会機構の欠陥から余り隔絶しすぎてしまっている、知識人は民衆が現実としてもっている文化水準へ歩みよる努力をしなければならない、そこに新たな文化の生育の可能とヒュー・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・ 中国の文化はまだ甚しく不均衡で、民衆の文盲率は高く、文章によって生計を保ちがたい状態かもしれない。出版ということは、利潤追求の手段となっていない程度であるかもしれない。しかし、文化のその状態は「春桃」に集められた作家たちの心に、食う食・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・従って、実力以上の負担を負うのは気の毒ながら何とかして町との均衡を保つために一つ私の考える事、持論があります。 ちっと話が大きくなりますが」――彼は大鉢の縁で煙草の灰を叩き落した。「つまり此の大神宮を昇格させようとする事なのです。そ・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
――船が嵐にあって沈まないためには積荷が均衡をもって整理されていることが必要である。―― わたしたちのまわりに、また戦争に対する恐怖が渦まきはじめた。一部には、その恐怖が病的にさえ高まってゆきつつある。それだ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・ 人それぞれに、自分の恋愛生活、結婚生活に対する何かの不安、疑問、確信の欠如があるから、何かその間に均衡を見つけ出せるような理窟、考え方、或は単なる処しかたでもないかという欲求が、恋愛論の炉へ旺に薪をさし加えるのであろう。一方には、知性・・・ 宮本百合子 「もう少しの親切を」
・・・しかし、まだ忙しいモスクワ市民の需要と供給の比率は均衡からはるかに遠い。 その一方にこういう事情がある。燕麦の収穫が一九二九年は多くなかった。日本女は、今日び馬を食わせるのに云々という御者の言葉は、だからそれ自身としては十分信じ得る。そ・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
・・・大戦において経験された破壊を心から嘆き、戦争が非人道的な所業であることを心から恥じているヨーロッパの多くの進歩的な人々は、真面目に第二次大戦を防ごうとしていたし、あらゆる形、あらゆる会議、あらゆる力の均衡を発見する方法をつくして、危機に迫っ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・何といおうか、人格の芯の芯まで光りが射し込み、自己内部に拘わっているものの純不純が一目瞭然とし、我というものに対して取るべき態度、延いては外界と自己との均衡がその時の最善に於てきっぱりと、わかったのです。 この位置のきまったという感は、・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・ ネーは彼の後から、いつもと違ったナポレオンの狂った青い肩の均衡を見詰めていた。「ネー、今夜はモロッコの燕の巣をお前にやろう。ダントンがそれを食いたさに、椅子から転がり落ちたと云う代物だ」二 その日のナポレオンの奇怪・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫