・・・我が心の照応する所境によって変幻極りない。僕が御幣を担ぎ、そを信ずるものは実にこの故である。 僕は一方鬼神力に対しては大なる畏れを有っている。けれどもまた一方観音力の絶大なる加護を信ずる。この故に念々頭々かの観音力を念ずる時んば、例えば・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・二日置いて九日の日記にも「風強く秋声野にみつ、浮雲変幻たり」とある。ちょうどこのころはこんな天気が続いて大空と野との景色が間断なく変化して日の光は夏らしく雲の色風の音は秋らしくきわめて趣味深く自分は感じた。 まずこれを今の武蔵野の秋の発・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・雨と晴れとの中にありて雲と共に東へ/\と行くなれば、ふるかと思えば晴れ晴るゝかと思えばまた大粒の雨玻璃窓を斜に打つ変幻極まりなき面白さに思わず窓縁をたたいて妙と呼ぶ。車の音に消されて他人に聞えざりしこそ仕合せなりける。 大井川の水涸れ/・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・日本のような多彩にして変幻きわまりなき自然をもつ国で八百万の神々が生まれ崇拝され続けて来たのは当然のことであろう。山も川も木も一つ一つが神であり人でもあるのである。それをあがめそれに従うことによってのみ生活生命が保証されるからである。また一・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ おきなぐさはその変幻の光の奇術の中で夢よりもしずかに話しました。「ねえ、雲がまたお日さんにかかるよ。そら向こうの畑がもう陰になった」「走って来る、早いねえ、もうから松も暗くなった。もう越えた」「来た、来た。おおくらい。急に・・・ 宮沢賢治 「おきなぐさ」
出典:青空文庫