・・・また軽井沢などへ夏季の出店をする。いやどこも不景気で、大したほまちにはならないそうだけれど、差引一ぱいに行けば、家族が、一夏避暑をする儲けがある。梅水は富士の裾野――御殿場へ出張した。 そこへ、お誓が手伝いに出向いたと聞いて、がっかりし・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・あるいは夏季水道の水を汲んだままで実験していると溶けた空気が出て来て器械に附着し著しい誤りを生ずる事なども実験させた方がよいと思う。 その他「完全なる剛体」とか「摩擦なき面」とか「一定の温度」とか一々枚挙に遑はないが、こういう言葉を如何・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・ 四季のうち夏季は最も積極なり。ゆえに夏季の題目には積極的なるもの多し。牡丹は花の最も艶麗なるものなり。芭蕉集中牡丹を詠ずるもの一、二句に過ぎず。その句また 尾張より東武に下る時牡丹蘂深くわけ出る蜂の名残かな 芭蕉 ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・あちらの学校はたいてい六月のはじめから三月位ありますので専門学校の女学生は夏季講習を聴く者と、避暑に出かけるものとに分れます。 避暑の方法はやはり日本と同じで海か山へ行くのですが、しかし海へ行くとしても只ゆくばかりでなく、いろいろな戸外・・・ 宮本百合子 「女学生だけの天幕生活」
・・・遠い村に家のある生徒は、半農民の小ざっぱりした家へ下宿し、そのために二軒の下宿屋さえ有るのである。夏季講習が折々この村の中学で行われる時は、村中が急に、さざめき渡るのである。 それだから、彼等にとって生徒はまことに有難いものに写るので「・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫