・・・全く、私にとって多彩なる自然界に対する、感歎をさらに深からしめたものです。それは別として、子供が、せみを捕るのを知って、だまっていられませんでした。 私は、子供に、彼の偉大なるダーウィンが生きた虫を殺そうとせず、死骸をさがしてきて、標本・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・ただ、常陸山、梅ヶ谷、大砲、朝潮、逆鉾とこの五力士のそれぞれの濃厚な独自な個性の対立がいかにも当時の大相撲を多彩なものにしていたことだけは間違いない事実であった。それぞれの特色ある音色をもった楽器の交響楽を思わせるものがあった。皮膚の色まで・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・地球上どこでも同じ相貌を呈しているものとしたら、日本の自然も外国の自然も同じであるはずであって、従って上記のごとき問題の内容吟味は不必要であるが、しかし実際には自然の相貌が至るところむしろ驚くべき多様多彩の変化を示していて、ひと口に自然と言・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ それはとにかく、暑い国の夏の夕凪は、その肉体的効果から見ればたしかに、ベート・ノアルであるが、しかしそれが季節的自然現象であるだけにかなりに多彩な詩的題材を豊富に包蔵していることも事実である。 夕凪は夏の日の正常な天気のときにのみ・・・ 寺田寅彦 「夕凪と夕風」
・・・トルストイは偉大であり、ドストイェフスキーの世界は五月の嵐のように多彩強烈である。けれども彼等は革命を理解しなかった。歴史のある時期におこる飛躍と質の変換を理解しなかった。彼等の人間性一般は階級のバネをもっていない。 見事なルイ十六世式・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・人間一個の価値を、最大に、最高に、最も多彩に美しく歴史のうちに発揮せよ。小林多喜二の文学者としての生涯は、日本の最悪の条件のなかにあって猶且つ、そのように生き貫いた典型の一つである。〔一九四六年三月〕・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
・・・ この年六月十八日にマクシム・ゴーリキイがその多彩多産な六十八年の生涯をモスクで終ったことは、世界に少なからぬ感動をつたえた。ゴーリキイをしてしかく人類的な光彩ある活動と、才能の満開とを可能ならしめた社会の文化的条件を想い、翻ってその招・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ナポリの、多彩な、陽気な、歌ずきで騒々しい、花と景物にあふれた市場の賑いを描くとき、私どもは決して、ノールウェイの荒涼としたフョールドを描写する感情で描写することはできない。そしてまた、フョールドばかりを眺めて育った人がナポリに来てうける感・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・のスローガンの社会的実践によって導き出されて来た新しい労働者農民作家群の輩出、社会主義建設がすすむにつれて顕著なインテリゲンチア作家の階級的移行、有能な新幹部の多種多彩な文学的活動と、より広汎な人民層のプロレタリア化の可能性を、より高い見地・・・ 宮本百合子 「社会主義リアリズムの問題について」
・・・ヒューマニズムという言葉をきいた時、誰の胸にも浮ぶのはヨーロッパ文化に於ける文芸復興時代のヒューマニズムの多彩な開花であろう。ルネッサンスは中世の思想と社会が人間に強制していた種々の軛からの人間性の解放を叫んで、社会文化の各方面に驚くべき躍・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫