・・・「金色夜叉」は一世を風靡したが、硯友社の戯作者的残滓に堪え得なかった北村透谷は、初めて日本文学の上にヒューマニティの提唱をもって立ち現れた。高く、広く、輝かしく飛翔せんと欲する自我、人間性は、ロマンチシズムの焔に照らされて、通人の妥協的・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・私という女は夜叉なのであろうか? 子供が可愛いという一般的な日常の感情さえ味うことの出来ない、何かの餓鬼なのであろうか? 舟橋氏は、私が先頃報知新聞に九月の創作についての感想をかいた中で、「新胎」のテーマが含んでいる歴史的な方向、氏によ・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・九年三十年代は日清戦争で、日本の経済事情が大きな変化をうけた時であり、一時いわゆる官員様といわれて、官僚全盛時代であったものが、新しく擡頭した金持、実業家がだんだん世間の注目の的となり、小説でも「金色夜叉」などがひろく読まれた時代でしたから・・・ 宮本百合子 「わが母をおもう」
出典:青空文庫