・・・西洋くさい文明が田舎のすみずみまで広がって行っても、盆の月夜には、どこかの山影のような所で、昔からの大和民族の影が昔の踊りを踊っているのではあるまいかと。 盆踊りという言葉にはイディルリックなそしてセンシュアスな余韻がある。しかしそれは・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・最近の「軍艦大和」の問題は、文学作品の形をとっていたから、文学者たちの注目を集め、批判をうけましたが、ひきつづきいくつかの形で二・二六実記が出て来たし、丹羽文雄の最後の御前会議のルポルタージュ、その他いわゆる「秘史」が続々登場しはじめました・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
丘をはさんで点綴するくさぶき屋の低い軒端から、森かげや小川の岸に小さく長閑に立っている百姓小舎のくすぶった破風から晴れた星空に立ちのぼってゆく蚊やりの煙はいかにも遠い昔の大和民族の生活を偲ばせるようで床しいものです。此の夏・・・ 宮本百合子 「蚊遣り」
・・・ルポルタージュであるにはちがいないが、したがってそれはあったことをあったとおりに書いているといえるわけだが、例えば「軍艦大和」という作品が問題になったように、題材に向う態度が、戦争当時の好戦的な亢奮した雰囲気をそのままとり戻しているようなも・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・中島氏の文章はサロン五月号にのった吉田満氏の「軍艦大和」が「全く戦時型スタイル」であることを中心にしたものだった。梅崎春生氏がその作品をよまないで推薦したことについての自己批判も同じ日の文化欄に発表された。このことについて梅崎氏は、他の二三・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・ロマンス類が、もとの軍情報部に働いていた人をやとい入れて、戦時秘史だの反民主的な雰囲気を匂わせはじめると、その風潮は無差別にぱっとひろがって二・二六事件記事の合理化された更生から文学にまで波及し「軍艦大和」のように問題となる作品をうんだりし・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・レイテ戦は総敗北、海軍の大本山、戦艦大和も撃沈された風説が流れていた。 珍らしいパン附の食事を終ってから、梶と栖方は、中庭の広い芝生へ降りて東郷神社と小額のある祠の前の芝生へ横になった。中庭から見た水交社は七階の完備したホテルに見えた。・・・ 横光利一 「微笑」
・・・平安朝の大和画家は当時の風俗の忠実な描写をやった。しかもミケランジェロは今の洋画の祖先として似つかわしく、大和画家もまた今の日本画の祖先として似つかわしい。今洋画家が想像画を描くことは必ずしも邪道でなく、日本画家が写生画を描くこともまた必ず・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫