・・・ 四月三十日の未の刻、彼等の軍勢を打ち破った浅野但馬守長晟は大御所徳川家康に戦いの勝利を報じた上、直之の首を献上した。(家康は四月十七日以来、二条の城にとどまっていた。それは将軍秀忠の江戸から上洛するのを待った後この使に立ったのは長晟の・・・ 芥川竜之介 「古千屋」
・・・修理はじっと宇左衛門の顔を見ながら、一句一句、重みを量るように、「その前に、今一度出仕して、西丸の大御所様へ、御目通りがしたい。どうじゃ。十五日に、登城させてはくれまいか。」 宇左衛門は、黙って、眉をひそめた。「それも、たった一度じ・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ 正宗白鳥は自然主義時代からの作家として今日も評論に小説に活動して一種の大御所のような風格をもった存在となっているのであるが「ひかげの花」について菊池寛の見解に反対した意見の中には、その矛盾においてなかなか教えるところがある。 菊池・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・しかし意味ありげな大御所のことばを聞いて、皆しばらくことばを出さずにいた。ややあって宗が危ぶみながら口を開いた。「三人目は喬僉知と申しまするもので」家康は冷やかに一目見たきりで、目を転じて一座を見渡した。「誰も覚えてはおらぬか。・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫