・・・ 二宮尊徳 わたしは小学校の読本の中に二宮尊徳の少年時代の大書してあったのを覚えている。貧家に人となった尊徳は昼は農作の手伝いをしたり、夜は草鞋を造ったり、大人のように働きながら、健気にも独学をつづけて行ったらしい。これ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ ところが、南禅寺でのその対局をすませていったん大阪へ引きあげた坂田は、それから一月余りのち、再び京都へ出て来て、昭和の大棋戦と喧伝された対木村、花田の二局のうち、残る一局の対花田戦の対局を天龍寺の大書院で開始した。私は坂田はもう出て来ま・・・ 織田作之助 「勝負師」
・・・ 今からでも大書店で十六ミリフィルムを売り出してもよくはないか。そうして小さな試写室を設けて客足をひくのも一案ではないかと思われるのである。近ごろ写真ばかりの本のはやるのはもうこの方向への第一歩とも見られる。 読みたい本、読まなけれ・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・、是非にも遊びに来るようにと手紙をもらうことも度々になったので、去年の正月も七草を過ぎたころ、見物に出かけた、その時木馬館の後あたりに小屋掛をして、裸体の女の大勢足をあげて踊っている看板と、エロス祭と大書した札を出しているのがあった。入場料・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・今一証を示さんに、駿州清見寺内に石碑あり、この碑は、前年幕府の軍艦咸臨丸が、清水港に撃たれたるときに戦没したる春山弁造以下脱走士の為めに建てたるものにして、碑の背面に食人之食者死人之事の九字を大書して榎本武揚と記し、公衆の観に任して憚るとこ・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 自由という名は耳と心に快くひびくが、食糧事情の現実は、わたしどもの今日に、饑餓と大書してそびえ立っている。開放と不安との間に、橋の架けかたを知らされずに近代を通ってきた正直な日本の幾千万の人々が、ひしめいているのである。 文学が、・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・自分たちが学校の看板をとって投げすてたその溝川へ、あろうことかA部隊と大書した板が投げこまれているではないか。娘ども、と思っていた女生徒たち以外にそんなことを敢えてする者は、その雑木林の町にはいない。問題となって、そこの女生徒全部を軍法会議・・・ 宮本百合子 「結集」
・・・とであった。「触ルト死ぬゾ」と大書した紙をぶら下げた鉄条網に二百ボルトの電流を通じて警官の侵入を防いでいる写真が新聞に出たりした。闘争基金千円を募集し食糧を一ヵ月分車輌の中に運び込んでいること。婦人従業員をふくめた自衛団が組織され、全員十六・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・けれども、ここの町内のは小さく三角形の頂きをもったものではなくて、四分板へいきなり名誉戦死者の軍人としての階級も大書して、それを門傍の塀へ、塀いっぱいの高さに釘づけにしてある。火事にあって立ちのき先を四分板へ大書しておく、あの感じで、それは・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・とりいそいでこしらえたらしい紙の広告で「オリンピックにそなえよ!」と上の方に横書きされ、下に「速成ガイド資格準備、速成オリンピック用会話教授」と大書されたわきに、それぞれ赤インクで線がひいてある。二三日前の雨のせいで、赤インクは侘しく流れ滲・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
出典:青空文庫