・・・一九二八年には百十万人もあった失業者を全部吸収したが、それでもまだ足りない。工場によっては苦しまぎれに、賃銀をよくして労働者を集めようとする。そこで、一九三〇年の冬に大清算された「飛びや」が現れた。つまり、五十哥でも多い方へ多い方へと、工場・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・特権階級の者は、当時なお強固な基礎を失っていなかったし、労働者階級は失業や賃下げに対して闘って、労働して生きてゆく大衆としての力をもっている。ノッティンガムの礦夫の息子として生れ、教育のあった母のおかげと、自分の努力で大学に学ぶことのできた・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・○○○さんが帯の間にはさんで持って来ていた鉛筆でそれぞれ書き込み、職業というところでゆきつまりました。失業中なのです、と云ったら○○○さんが「失業と書きなさいよ。貴女がわるいんじゃあるまいし」と云うので、失業と書きました。さっき紙をわけた巡・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・ 貧困、失業、働く妻、母子などの生活のさまざまな瞬間をとらえて描いているケーテの作品を一枚一枚と見てゆくと、この婦人画家がどんなに自分を偽ることができない心をもっていたかを痛感する。何か感動させる光景に出会った時、または心をとらえる人の・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・生きてゆく上に経済事情がどんなに決定的な条件であるかという事実も、こうして女子の失業が強制されて来れば、考えずにはいられない。一人一人の若い女性が身にあまる現代の疑問と慾求とに満ちて生きている。そこへ、選挙権が与えられた。ひしと身に迫り、身・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ 失業者は二月下旬に五百八十三万人と云われた。これは、日本の失業統計のレコード破りである。これだけの人数が、みんな一ヵ月世帯主三〇〇円、家族数一人につき一〇〇円ずつの預金をどこからか下げて、あらゆる三倍ずつの生計費をまかなって暮し、花見・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・ダイジェストがアンケートを送った電話・自動車所有者名簿には、数百万の失業者、もっと多数の半失業者、貧農とその妻たちその娘たちの名はのっていなかった。しかし、これらの名簿から消されながら生きているアメリカの、現実の有権者たちは、いくらかでもま・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・さらに、百万人の失業と予告されているその百万分の二に二人がなる可能についての憂慮ではなかっただろうか。ここに、今日の日本の民主主義の実状があり、その段階がある。封建的な人間性の否定に抗すると同時に、その意欲と行動との統一された表現として、歴・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・反対に、日々の労働の痛苦、いまの社会で母性が経験する大小無数の苦労。失業のいたで。生活の安定を見出そうとして階級として努力するその過程にうけている容赦ない政治的な経験などによって、わたしたちの、人民としての階級的なヒューマニティーはますます・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・偶々そばにふらふらと歩いている失業者、学生、或いはその他の通行人が来る。老人は彼らに向かって演説を始める。物見高い都会のことであるから、いそがしい用事を控えた人までが何事かと好奇心を起こしてのぞきにくる。老人は怒りの情にまかせて過激な言を発・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫