・・・ と途轍もない奇声を揚げた。 同時に、うしろ向きの赤い袖が飜って、頭目は掌を口に当てた、声を圧えたのではない、笛を含んだらしい。ヒュウ、ヒュウと響くと、たちまち静に、粛々として続いて行く。 すぐに、山の根に取着いた。が草深い雑木・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・村長の爺様が、突然七八歳の小児のような奇声を上げて、(やあれ、見やれ、鼠が車を曳――とんとお話さ、話のようでございましてな。」「やあ、しばらく!」 記者が、思わず声を掛けたのはこの時であった―― 肩も胸も寄せながら、・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・、立ちどころに言い返して勝てば、一年中の福があるのだとばかり、智慧を絞り、泡を飛ばし、声を涸らし合うこの怪しげな行事は、名づけて新手村の悪口祭りといい、宵の頃よりはじめて、除夜の鐘の鳴りそめる時まで、奇声悪声の絶え間がない。 ある年の晦・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
・・・それらの連中はこの家から少し上の上林ホテルというのにつめこまれるが、この家では二晩おきに、二晩つづいて、奇声を発する変なチビ芸者をあげてさわぎがあり。小学校の先生が集団的にさわぐのです。ドタンドタン殺気と田舎らしい荒っぽさのこもった遊びぶり・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫