・・・ この多襄丸と云うやつは、洛中に徘徊する盗人の中でも、女好きのやつでございます。昨年の秋鳥部寺の賓頭盧の後の山に、物詣でに来たらしい女房が一人、女の童と一しょに殺されていたのは、こいつの仕業だとか申して居りました。その月毛に乗っていた女・・・ 芥川竜之介 「藪の中」
・・・銀行員は気の弱弱しげな男で、酒ものまず、煙草ものまず、どうやら女好きであった。それがもとで、よく夫婦喧嘩をするのである。けれども屋賃だけはきちんきちんと納めたのだから、僕はそのひとに就いてあまり悪く言えない。銀行員は、あしかけ三年いて呉れた・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・しかし、だんだん話合ってみると、私の同級生は、たいてい大酒飲みで、おまけに女好きという事がわかり、互に呆れ、大笑いであった。 小学校時代の友人とは、共に酒を飲んでも楽しいが、中学校時代の友人とは逢って話しても妙に窮屈だ。相手が、いやに気・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
出典:青空文庫