・・・八十二歳のトルストイは、日頃から家庭にある殆ど唯一の理解者、三女のアレクサンドラに手つだわせて家出をした。僧院に向う途中、トルストイはアスタポヴォという寒村の小駅で、急に肺炎をおこして亡くなったのであった。 レフ・トルストイは、全生涯を・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・を書いていたとき、家出をしているアンナが、愛する息子セリョージャの誕生日の朝、こっそり良人の家へしのんでセリョージャに会いにくる場面にかかった。このとき、トルストイは、不幸なアンナが切迫した愛の思い、屈辱感、憎悪と悲しみとの混乱のなかで、カ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・野心家で空想家でやがて飲んだくれになり、家出常習であった父親と、短い生涯を子供を養うために働き切って栄養不良で死んだ母親との生活の観察。その母を扶けるために金や子供の衣類を稼ぎの中から仕送りして来る淫売婦である母の妹、性的生活は荒々しい生活・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・ 若気の至りで家出した遊び者の若者は、じきに涙をこぼしながら故郷に立ち戻るものじゃと昔からきまって居る。 又わしはどんなにもつれた糸でも手際良くほごす力を授かって居るでの。老人 いかな力がござってもわたくしは臆病のさせる事かもし・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ ソーニア・コレフスカヤのように、勇敢なインテリゲンツィアの若い婦人たちは、医学を勉強しようとして、科学を勉強するためにさえ家出しなければならなかった。家出した娘たちは個人教授をやったりして、自活しながら勉強し、大学生活と自活生活におけ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・の主人公の家出、破婚、流浪の本質を描いているのだけれども、フランス文学にごく近接しているようなその作風が、やはり文学の肉体として敏い感覚性や批判の心をくるんでいるのは独特なアメリカの肉の厚ぼったさ、大きさ、ひろさの響である。 このところ・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・彼は堪え切れず十七歳になる迄に五度も家出をし、最後に、そして永久に父の家を見捨てることに成功した時には、ニージニの町へ落付いた。二十歳の時、もうマクシムは一人前の指物師、壁紙貼職人であった。彼が働いている仕事場は偶然、ニージニの職人組合の長・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・父親はある将校の息子であったが、十七歳になるまでに五度も家出をくわだてた。父親である将校は部下を虐待したかどでシベリアに移されたという男である。ニージュニへは十六歳で来た。二十歳の時は一人前の家具師で、その仕事場が祖父の家とならんでいる。・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・ところが允子は息子の家出と自分らの捨てられたこととを同時に感じており、作者も亦この感じを允子の感じの中に置いて見ている。允子は、何故自分らがよい親であった筈だのに捨てられたと感じなければならないかという、最も人間の真実ある交渉の機微にふれた・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・それが家出をして行方が知れずにいる。然るに先刻向側からあなたを見て、すぐにその兄だと思った。分れてからだいぶ年が立ったが、毎日逢いたい逢いたいと思うので、こっちでは忘れずにいる。あなたを見た時、すぐに馳けて来ようかと思ったが、人目があるので・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫