・・・……小遣万端いずれも本家持の処、小判小粒で仕送るほどの身上でない。……両親がまだ達者で、爺さん、媼さんがあった、その媼さんが、刎橋を渡り、露地を抜けて、食べものを運ぶ例で、門へは一廻り面倒だと、裏の垣根から、「伊作、伊作」――店の都合で夜の・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・あの時お前さんがわたしの言った通りにすると、今はちゃんと家持になっているのね。去年のクリスマスにはあの約束をおしの人の二親のいる、田舎の内にお前さんは行っていて、そういったっけね。もうもう芝居なんぞは厭だ。こんな田舎で気楽に暮したいとそうい・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・いい板一枚に家持の小市民は十哥ずつ呉れる。この仕事には仲のいい徒党があつまっていた。モルト人の乞食の十歳になる息子のサーニカ。大きい黒い目をした身よりのないカストローマ。十二歳の力持ちのハーヒ。墓地の番人で癲癇持ちのヤージ。一番年かさなのは・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫