・・・物騒な代の富家大家は、家の内に上り下りを多くしたものであるが、それは勝手知らぬ者の潜入闖入を不利ならしむる設けであった。 幾間かを通って遂に物音一ツさせず奥深く進んだ。未だ灯火を見ないが、やがてフーンと好い香がした。沈では無いが、外国の・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・左れば夫の婬乱不品行は実証既に明白にして、此事果して妻たる者の身に関係なくして、隣の富家翁が財産を蓄え土蔵を建築したるの類に比較す可きや否や。隣家の貧富は我家の利害に関係なしと雖も、夫の婬乱不品行は直接に妻の権利を害するものにして、固より同・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・奥蔵を建て増し、地所を買い添えて、山城河岸を代表する富家にしたのはこの伊兵衛である。 伊兵衛は七十歳近くなって、竜池に店を譲って隠居し、山城河岸の家の奥二階に住んでいた。隠居した後も、道を行きつつ古草鞋を拾って帰り、水に洗い日に曝して自・・・ 森鴎外 「細木香以」
出典:青空文庫