・・・とのパウロの言の如きは彼等の受納ざる所である、斯して彼等は―是等の現代人等は―浅く民の傷を癒して平康なき所に平康平康と言うのである、彼等は自ら神の寵児なりと信じ、来世の裁判の如きは決して彼等に臨まざることと信ずるのである、然し乍ら基督者とは・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・地球の寵児さ。たった三日の辛抱だ。どうかしら? やる気はないかな。意気地のない野郎だねえ。ほっほっほ。いや、失礼。それでなければ犯罪だ。なあに、うまくいきますよ。自分さえがっちりしてれあ、なんでもないんだ。人を殺すもよし、ものを盗むもよし、・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・学生本来の姿とは、即ち此の神の寵児、此の詩人の姿に違いないのであります。地上の営みに於ては、何の誇るところが無くっても、其の自由な高貴の憧れによって時々は神と共にさえ住めるのです。 此の特権を自覚し給え。この特権を誇り給え。何時迄も君に・・・ 太宰治 「心の王者」
・・・私は三井君を、神のよほどの寵児だったのではなかろうかと思った。私のような者には、とても理解できぬくらいに貴い品性を有っていた人ではなかったろうかと思った。人間の最高の栄冠は、美しい臨終以外のものではないと思った。小説の上手下手など、まるで問・・・ 太宰治 「散華」
・・・私は神のよほどの寵児にちがいない。望んだ死は与えられず、そのかわり現世の厳粛な苦しみを与えられた。私は、めきめき太った。愛嬌もそっけもない、ただずんぐり大きい醜貌の三十男にすぎなくなった。この男を神は、世の嘲笑と指弾と軽蔑と警戒と非難と蹂躙・・・ 太宰治 「答案落第」
・・・あなたも、僕も、ともに神の寵児です。きっと、美しい結婚できます。 待ち待ちて ことし咲きけり 桃の花 白と聞きつつ 花は紅なり 僕は勉強しています。すべては、うまくいっています。では、また、明日。M・T。「姉さん、あたし知っ・・・ 太宰治 「葉桜と魔笛」
・・・自分は醜いから、ひとに愛される事は出来ないが、せめて人を、かげながら、こっそり愛して行こう、誰に知られずともよい、愛する事ほど大いなるよろこびは無いのだと、素直に諦めている女性こそ、まことに神の寵児です。そのひとは、よし誰にも愛されずとも、・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・小さい時分は一家じゅうの寵児である「三毛」の遊戯の相手としての「道化師」として存在の意義を認められていたのが、三毛も玉も年を取って、もうそう活発な遊戯を演ずる事がなくなってからは、彼は全く用のない冗員として取り扱われていた。もちろんそれに不・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
出典:青空文庫