・・・雁金八郎という、小学校をでたばかりであるが発明についての才能をもった男が、久内と対蹠的人物として「紋章」にでてくる。その雁金の存在と醤油製造、乾物製造についての発明の過程や、久内の父である山下博士の雁金に対する学閥を利用しての資本主義的悪策・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・財界の特需景気と警察予備隊景気、戦争気分をそそるレッド・パージとそれに対蹠する戦犯一万九百人の解放。われわれ日本の人民は、事実をどう語っていいのか、不安におかれはじめた。 平和の問題こそ、いまの日本の運命にとって、中心課題である。みんな・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・と引き合され、これらの二つの作品と、二人の作者の態度が全く対蹠的であることで目立つというのは尤もであろう。「贋金つくり」において作者の興味をとらえているのは、人間性の時代的なこわれかたとその各破片のままの閃きの姿である。「チボー家の人々」を・・・ 宮本百合子 「次が待たれるおくりもの」
・・・ばかりのロシアの富裕な貴公子で、天性優美と不決断とを持った西欧主義者として当時ペテルブルグの華やかな社交界に余暇の多い日々を送っていたればこそ、舞台以外のヴィアルドオ夫人と親しくする機会をもち、彼とは対蹠的であったらしい夫人の溌剌とした性格・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 四 全然対蹠的な主題を扱った小説として同じ『中央公論』に同志細田民樹の「裏切者」がある。今日「プロヴォカートル」という言葉は逆宣伝的な意味にでも通俗化され、新語辞典に出て来る文字となった。プロレタリア作家・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・万葉とは対蹠的な罪業や来世の観念に貫かれた王朝の精神というものを、万葉とともに、抽象的な情熱として愛するということは、殆ど理解しがたい迄に困難である。 このように相反する時代精神を享受する情熱が、何故に芭蕉の芸術的精神を肯けないのであろ・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・ 主人公の持つ方向と、作者の意企とは、それらの作品とむしろ対蹠的なものである。然し作品として見れば失敗の部に属すものとなっている要因を、その社会的根源にまで遡って見ると、私は、歴史的にはそれが「白夜」や「友情」その他の作家たちを今日あら・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・ とかく女が狭い生活にとじこめられていたために、人生の視野がせばまって、我執だの偏執だのが女につきものの気質のように見られた一方の、その対蹠的な要求とでもいうべきものだったのかもしれない。やきもちをやかないこと、そして物わかりのよいこと・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
・・・箱根の温泉宿で、これら二人の女に対蹠する気質の清子が現れたところで、私たちは作者の死とともに作品の発展と完結とを奪われたのである。「明暗」においても、漱石は女が結婚すると人間として悪くなる、少くとも素直でなくなり、品性がよくなくなるとい・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・恋愛を夫婦愛の中核として見て、その発展と成熟との間におこる種々の問題こそ研究さるべきであるという常識は、日本の、現在でもなお結婚と恋愛とを切りはなして考える慣習と対蹠をなしている。 昔の日本人は、封建の柵にはばまれて、心に思う人と、親の・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫