・・・或る地方の好色男子が常に不品行を働き、内君の苦情に堪えず、依て一策を案じて内君を耶蘇教会に入会せしめ、其目的は専ら女性の嫉妬心を和らげて自身の獣行を逞うせんとの計略なりしに、内君の苦情遂に止まずして失望したりとの奇談あり。天下の男子にして女・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 中津の藩政も他藩のごとく専ら分を守らしむるの趣意にして、圧制を旨とし、その精密なることほとんど至らざるところなし。而してその政権はもとより上士に帰することなれば、上士と下士と対するときは、藩法、常に上士に便にして下士に不便ならざるを得・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・但し今の世間に女学と言えば、専ら古き和文を学び三十一文字の歌を詠じて能事終るとする者なきに非ず。古文古歌固より高尚にして妙味ある可しと雖も、之を弄ぶは唯是れ一種の行楽事にして、直に取て以て人生居家の実際に利用す可らず。之を喩えば音楽、茶の湯・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ひっきょう、学校の教育不完全にして徳育を忘れたるの罪なりとて、専ら道徳の旨を奨励するその方便として、周公孔子の道を説き、漢土聖人の教をもって徳育の根本に立てて、一切の人事を制御せんとするものの如し。 我が輩は論者の言を聞き、その憂うると・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 今かりに一歩を譲り、倫理教科書中、私徳のことに説き及ぼさざるに非ず、「一家の間は専ら親愛をもってなる云々、一夫一妻にしてその間に尊卑の幣を免かるるは云々」等の語さえあれば、私徳の要ももとより重んずるところなりと説を作すも、本書をもって・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
明治十八年夏の頃、『時事新報』に「日本婦人論」と題して、婦人の身は男子と同等たるべし、夫婦家に居て、男子のみ独り快楽を専らにし独り威張るべきにあらず云々の旨を記して、数日の社説に掲げ、また十九年五月の『時事新報』「男女交際・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・然るに今その敵に敵するは、無益なり、無謀なり、国家の損亡なりとて、専ら平和無事に誘導したるその士人を率いて、一朝敵国外患の至るに当り、能くその士気を振うて極端の苦辛に堪えしむるの術あるべきや。内に瘠我慢なきものは外に対してもまた然らざるを得・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 只、専ら怖れて居ると云う様にして居た。それだから恭二自身も、いざとなった場合、はっきり、 私が不賛成です。と云い切れるかどうかが疑問であったし、お君も亦、頼む夫が、ふらりふらりして居るので、余計、取越苦労や廻し気ばかり・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
今日家庭というものを考える私たちの心持は、おのずから多面複雑だと思う。 家庭は今日大事とされている。貯蓄のことも、生めよ、殖せよということも、モラル粛正も、専ら家庭内の実行にかけられている。 昨夜の夕刊には、大蔵省・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・く、可哀そうだと云うのでもなく、家中のどよめきに連れて只ソワソワして居た私は、深く夜着の中にもぐって居ながら、遠くの足音にも耳をすませたり、一寸人が近くまで来ると、咳払いをしたりわざと欠伸をしたりして専ら気の毒な自分が寝もやらずに居る事を知・・・ 宮本百合子 「追憶」
出典:青空文庫