・・・しかしこれだとすると、たいていは光芒射出といったようなふうに見えるのであって、どうも「火の玉」らしく見えそうもないと思われる。 そうかと言って、浴室の天井の電燈が一時消えていたというのは単なる想像であって実証をたしかめたわけでもなんでも・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・東の空が明るくなりて、日天子さまの黄金の矢が高く射出さるれば、われらは恐れて遁げるのじゃ。もし白昼にまなこを正しく開くならば、その日天子の黄金の征矢に伐たれるじゃ。それほどまでに我等は悪業の身じゃ。又人及諸の強鳥を恐る。な。人を恐るることは・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・ ウォーレスの新党が進歩党と名づけられ、むだなかけひきは一切ぬきに世界平和と民主主義推進の綱領を正面にかかげて立候補したとき、あいまいに立ちこめた雲がさけて、ひとすじのつよい明るい光が射出した感じを受けたのは、わたしたちだけではなかった・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 石段の数が次第に多くなって黒いぼっこり山の頂近いところに、煌々と電燈を射出している一つの家が見えた。「一寸おどかそうかな」 若い人はひとりごとのように含み笑いして、「奥さん、宿やは、あの位のところですよ」と言った。・・・ 宮本百合子 「琴平」
出典:青空文庫