・・・ 十蔵はその片目を細くして小歌うたいつ、たちまち卓を打ちて、君よかの問いの答えはいかにしたまいしとその片目をみはりぬ。二郎はいたく酔い、椅子の背に腕を掛けて夢現の境にありしが、急に頭をあげて、さなりさなりと言い、再び眼を閉じ頭を垂れたり・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、メロスの足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・其飲食遊戯の時間は男子が内を外にするの時間にして、即ち醜体百戯、芸妓と共に歌舞伎をも見物し小歌浄瑠璃をも聴き、酔余或は花を弄ぶなど淫れに淫れながら、内の婦人は必ず女大学の範囲中に蟄伏して独り静に留守を守るならんと、敢て自から安心してます/\・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫