・・・安全剃刀の替刃、耳かき、頭かき、鼻毛抜き、爪切りなどの小物からレザー、ジャッキ、西洋剃刀など商売柄、銭湯帰りの客を当て込むのが第一と店も銭湯の真向いに借りるだけの心くばりも柳吉はしたので、蝶子はしきりに感心し、開店の前日朋輩のヤトナ達が祝い・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・しかし、小物には閉口であった。ほらばかり吹いて、そうして、やたらに人を攻撃して凄がっていた。 人をだまして、そうしてそれを「戦略」と称していた。 プロレタリヤ文学というものがあった。私はそれを読むと、鳥肌立って、眼がしらが熱くなった・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・道太は手廻りの小物のはいっているバスケットを辰之助にもってもらい、自分は革の袋を提げて、扇子を使いながら歩いていた。山では病室の次ぎの間に、彼は五日ばかりいた。道太の姉や従姉妹や姪や、そんな人たちが、次ぎ次ぎににK市から来て、山へ登ってきて・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ ベルリンで或る洒落た小物屋の店へ入って、むこうにも面白いハンド・バッグの並んだショウ・ケイスがあるからそちらへ行こうとして爪先を向けたら、いきなり鏡にぶつかった時にはほんとにおどろいた。 自動車の運転 日・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・只、三十年前に指環、カフス・ボタンのような小物を買った店が、現在でも同様趣味のある小物を売っているので、懐しがっておりました。私に、折角ロンドンにいるのだから大英博物館だけは毎日でも行って見て置けと頻りにすすめました。特にギリシア室を見ろと・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・使わなければならない紐の数、小物の数、いかばかりだろう。その一つ一つに神経がいる。けれども、全体の形は少くともこれ迄は、働く時間の衣類の形もくつろぐ時、外出の時の衣服の形も同じで、動きを語る線の上でのくっきりとした変化というものは持たなかっ・・・ 宮本百合子 「働くために」
・・・ その二つの時計は父が畳廊下の小物箪笥の引出しに入れておいたのを、いつの間にか誰かに持ち出されてしまっていたのであった。今だに誰の仕業だか分らない。時計は正確ならそれで十分だと云って、父はそれから無事にのこったプラチナの鎖の先にクローム・・・ 宮本百合子 「わが父」
出典:青空文庫