・・・これではいけぬと思うより早く橋を渡り越して其突当りの小門の裾板に下駄を打当てた。乱暴ではあるが構いはしなかった。「トン、トン、トン」 蹴着けるに伴なって雪は巧く脱けて落ちた。左足の方は済んだ。今度は右のをと、左足を少し引いて、又・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・園に達すれば門前に集う車数知れず。小門清楚、「春夏秋冬花不断」の掛額もさびたり。門を入れば萩先ず目に赤く、立て並べたる自転車おびたゞし。左脇の家に人数多集い、念仏の声洋々たるは何の弔いか。その隣に楽焼の都鳥など売る店あり。これに続く茶店二、・・・ 寺田寅彦 「半日ある記」
・・・ 一旦、托児所を出て往来を横切ると特別な工場学校の小門があって、十五六歳の少年少女がそこを活溌に出入している。入ったところの広場で一つの組が丁度体操をやっている。十七八人の男女の工場学校の生徒が六列に並んで、一人の生徒の指揮につれて手を・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ 入れもしないのに早く来て、それを誇りに思う心持も微笑まれるし、暑かろうが寒かろうが、小門から出入する気などは毛頭起さず、ひたすら、小使が閂を抜いてさっと大門を打ち開くのを今か今かと、群れて待ち焦れている心持は、顧みて今、始めていとしさ・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・けれども、どういう門から入ろうと、それが葛のからんだ小門からであろうと、粗石がただ一つころがされた目じるしの門からであろうと、あらゆる道が、一つの民主主義文学の広場に合し流れ集まらなければならないことは明らかだろう。理論家は自分としての着眼・・・ 宮本百合子 「両輪」
出典:青空文庫